でも、いざ死と向き合って途方に暮れてしまいました。そこへ行くまでの手続きは一体どうなるのでしょう。葬儀はしないにしても、入院、火葬、死亡届、公共料金の支払い、家の後始末。気になることを箇条書きにしてみると一〇項目にもなりました。身内や友人がいないわけではありません。いつまでも先生と慕ってくれる教え子もたくさんいます。でも私はそっと消えてしまいたいのです。誰にも気づかれず『いつの間にか消息を聞かなくなった』という終わりにしたいのです。これは贅沢でしょうか」
「もやいの碑」から始まった生前契約
Mさんがこの希望をかなえてもらうため会員になったのがLiSSシステム。リスとは「LiSS=Living Support Service(リビング サポート サービス)」の頭文字を綴ったもの。直訳すると生活支援システムとなるが、その内容は自分の死によって発生するさまざまな問題の処理を、生きている間に第三者機関に委託しておく生前契約システムだ。一九九三年一〇月に(株)りすシステムが契約の受託機関となって首都圏で活動を開始した。
今は広く浸透し始めた生前契約という言葉、実はこのシステムを立ち上げたメンバーによる造語だという。「自分の人生を自立的に全うするための一つの社会保障概念として意味づけた」と、システムの生みの親である(株)りすシステム代表の松島如戒さんはいう。松島さんはMさんの手紙にもある「もやいの碑」を運営するもやいの会の事務局長でもある。「もやいの碑」は地縁・血縁を超えて誰でも平等に入れる共同墓で、東京・巣鴨のすがも平和霊苑にある。
しかし、墓は確保できても「そこへ行くまでの手続きは一体どうなるのでしょう」とMさんは書いている。それはもやいの会の会員みんなに共通した思いだった。