仕事を失った人たちばかりではない。残った人々や下請け企業などでも、解雇は免れたものの人員整理による慢性的人手不足で長時間労働を強いられたり、過酷なノルマを課せられたり。あるいは単身赴任を強要されたり。それでも頑張らなければという苦痛の裏で、真面目に向かい合おうとすればするほど自分すら気づかぬうちに心身がむしばまれていく。最早それを癒す唯一の“解決策”は自殺しかないというほどまでに。
もちろん自殺にはそれぞれ個別の深い事情があるだろう。どんなに周囲が理解しようとしてもわからない、本人の深い心の傷があるかもしれない。しかしそこまで個を犠牲にさせる「組織」「日本社会」のありようはどう考えてもおかしくはないだろうか。本人はもちろん、残された家族や周囲の代償はあまりに大きいのである。
【うつ病と自殺】
自殺は「うつ病」と密接に関連しているということも知っておこう。自殺者の六割がうつ病であるという調査結果もあるほどで、うつ病について知り、発見し、治療をすれば、自殺は確実に減らせるといっても過言ではないだろう。
うつ病は、以前は精神病の一種であり「躁うつ病」と呼ばれていたこともあったが、今では軽いうつ状態も含めて「うつ病」と呼ばれている。
うつ病はストレスが原因の現代病と思われがちだが、紀元前四世紀に医学の父と言われるヒポクラテスが今日と同じ症例を記録しているという。ヒポクラテスはこの症状が黒胆汁(メランコリー)という体液の過剰によって起こるとし、メランコリーと名付けた。
うつ病は特殊な病気ではない。アメリカでは、毎年一一〇〇万人がうつ病に罹ると推定されている。適切な治療によってうつ病は治る病気であるにもかかわらず、残念ながら日本ではその多くは隠れている。特に男性はうつ病であることを認めたがらない傾向にあるようだ。重症になってからでは手遅れであり、周囲が早めに症状に気づいてあげることも大切だろう。そのための医療体制整備もしっかりと望みたいところだ。