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それを踏まえてお伺いしたいのですが、「子どもの家」に来る子は確かに貧しい暮らしだったかもしれないけれど、逆に自由気ままに過ごして来たわけです。それを捨てて最低限の社会のルールを守る教育をしなければなりませんが、周囲の大人がうまくリードすればそういう規律の中に入ってくるという実感はありますか?

小山 そうとは言い切れないですね、残念ですが。

堀田 そうですか。

小山 一つは子供は社会を映す鏡ですから、社会の大きな変化を個人の力で押し戻すのは非常にむずかしいということです。たとえばホーチミン市などを知らないフエ市の子供にすると、大都会のホーチミン市は、どんな夢でも叶う町のように思うわけです。ドイモイが進んで都市間の移動も簡単になって、それまでこつこつ勉強していた子供たちの何人かは出て行ってしまいました。女の子はたとえばキャバレーみたいな売春するようなところがあって、簡単に金儲けする味を覚えてしまう。

堀田 勤勉でなくともお金が手に入ることに慣れてしまう。

小山 注意しても聞く耳を持ちませんし。ですから門戸だけは開けて、戻る先は用意しておいてあげたいと思っています。もう一つは、気儘な生活に長年馴染んできた心身を変えさせるのはやはり大変なことなんですね。特に最初の二、三か月は本人にとっては相当苦しいんですよ。

堀田 (うなずく)

小山 まず肉体的に彼らは夜昼逆転してるんです。そこから直さないといけない。彼らは夕方起きて外国人が来るホテルに物乞いに行くんですね。うちはだいたい朝五時に起きて夜一〇時就寝なんですが、これが相当身体にも、そして気持ちにもこたえるようで、その間に脱走してしまう子もいます。

堀田 そんな時はどうされるんですか?

小山 我々は警察じゃありませんから強制的には連れ戻せません。

 

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