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自立して稼いで豊かに生きたいという物欲的なものなのか、あるいはもう少し心の充実というか、個性を生かしたい、世の中に役立ちたいという思いが含まれているのか。

小山 両方の側面があって一口ではむずかしいですが、「子どもの家」で生活していく中でも、彼らの多くはちゃんと自分の能力や個性、やりたいことを見つけていくんです。自分の特性をよく理解していて、生き方と夢がくっついているというか。

堀田 現実の中で自分を見つめていく。

小山 そうですね。たとえば、ベトナムは日本と違って学校に行っていなければ何歳でも小一から始めないといけないんですが、ある一三歳の女の子はそれは嫌だから、自分の好きな刺繍をやっていきたいと。五、六年刺繍を勉強して一八歳になって店に勤めれば十分生きていけるわけです。また今回初めて「子どもの家」から大学に進んだ子がいるんですが、高校の英語教師になりたいからだという。こちらが大学に行けと言っても逆に断る子もいますし。

堀田 しっかりと自分の考えを持てているというのはすばらしいですね。逆にいわゆる上流階級の人たち、日本でいうところの「東大・大蔵省コース」のようなものはあるのですか?

小山 学歴社会という点では日本以上でしょう。大学に行くのは全体の五%ほどしかいませんし、裕福な家庭では有名校に行くために小学校から家庭教師も付けます。私のいるフエ市でも、ベトナム第三の都市ですが、大学までのピラミッド型ができてるんですね。高校はここ、そのための中学校はどこそこで、さらにそのための小学校はここだとか。でも多くの一般庶民には無縁の話で、別にそこに行かなくたって生きていけるよという考え方です。戦前の日本のような感じでしょうか。

堀田 なるほど。戦後の日本は、そうした学歴偏重主義が社会全体に及んでいろいろなひずみをつくってしまいました。

 

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