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小山 正直、嫌でした。怒り、驚き、悲しみ、絶望、そんな日常でもありました。日本の警察のスパイに疑われたり(笑)。喉元まで「もう帰る」と出かかるんですよ。でもそんな短慮では一〇〇人近くいる子供たち、六〇人近くいるスタッフに迷惑がかかりますし、何より子供たちの喜んだ顔が全てでしたね。

堀田 それは何よりの活力源になりますね。

小山 ベトナムは一般庶民のレベルではまだ地域協同、地域の教育力もあって基本的には健全な国だと思うんです。ただそれを統治している社会システムが硬直化して弊害が生じています。ベトナム戦争では世の中のため、民族独立を旗印にジャングルに籠もって戦った人たちが、二五年経った今では路上の子供たちを見ても何とも思わず、彼らにボール拾いをさせて優雅にテニスをしている。汚職もきりなくありますし。

堀田 結局、人間というのは権力を握ることに慣れてはいけない、心が腐って楽なほうに行ってしまうんですね。独裁主義は理屈だけでいえば、時の流れや庶民の気持ちを十分理解して行動する場合には非常に効率的だけれども、それを直す手段がないのが大きな欠点になってしまう。崩壊したソ連にしても中国にしても大きな流れでは同様ですね。

小山 批判を受けない中に長年いると、どんなに優れた人でも変わってしまうという実例を見ている感じです。日本のベトナム研究者の中でドイモイを高く評価する人は多いですし、確かにあれがなければ社会主義自体が崩壊していたでしょう。でも同時に負の部分も抱えてしまったんですね。

堀田 経済が自由化に向かえば、弱肉強食ですから貧富の差も激しくなりますし、特に途上国は発展第一で弱者がどんどん切り捨てられてしまう。

 

 

 

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