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また仕事を続けていて多少の経済力があったからこそ、人を頼んで介護ができたということもあります。だから費用の点だけでも、介護保険で本当に助かっている家庭は多いと思いますよ。もし今、母が要介護認定を受けて、仮に介護度3とします。一割負担を考えても、私が組んでいたスケジュールよりいい介護ができて、費用もずっと安いのです。

 

介護への男性参画が政策を変えていく力に

 

それでも、やはり仕事か親孝行か、苦渋の選択をする女性は多く、まだまだ介護は女性中心です。

 

取材で知り合った人などから「退職して親孝行に専念することになりました」なんていうあいさつハガキが舞い込むと、残念でたまりません。私の経験では、孤独や不安に打ちひしがれそうになっても、仕事への意欲につれて介護する意欲もわいてくるのです。仕事を辞めるのは絶対反対。退職金や年金にも響いて、自身の老いを貧しくもしますからね。

私は介護保険制度のスタートは「社会的親孝行の時代」の幕開けと思っています。介護が社会化し、家族が心にゆとりを持って介護できるように、上手に利用して制度を育んでいけないものでしょうか。

 

前高槻市長の江村利雄さん、社民党副党首だった伊藤茂さんら、妻の介護に専念するため仕事を辞める男性か話題になりました。男性の場合は美談になるのに、同じことを女性がしても当然という風潮があります。

 

美談でも何でも、とにかくどんどん男性が進んで介護に参画して声を上げてくれれば、それは政策にも影響します。

結局、老いをどう生きるかは、それまでの生き方の集大成でしょう。若い時から家庭や地域にかかわりを持ってよい人間関係を作っておくこと。仕事人間だった私にとって、最後の数年間は、体はやせ細ったものの、弱い命をいとおしむ思いは、母からのプレゼントだと思えるほどで、心は満ち足りていました。こうした人間らしい体験を男性も味わうために、積極的に介護の現場に臨んでほしいと思います。

 

 

 

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