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番組の質が悪いのは視聴率のせい、こんな声が巷でささやかれるようにもなった。上智大学文学部新聞学科助教授の音好宏さんは、「視聴率は、あくまで視聴という行為の量的側面のみを数値化したデータに過ぎない。番組の質が下がるのは視聴率のせいというのは、番組に対する責任を制作者が視聴率に責任転嫁するようなもの。より重要なのは、この視聴率データをどのように番組作りに生かしていけるのか」と、批判する。

そもそも、視聴率とは何なのだろう。株式会社ビデオリサーチ品質管理部によると、同社の視聴率調査は、広告効果を知るために一九六二年十二月に始めたもの。測定結果は番組制作者、広告代理店、スポンサーなどに提供されている。この調査により制作側は視聴者の関心や、好みの傾向、社会のニーズを推し測り番組制作の参考とされる。

この品質管理部では、実際に視聴した人の数を調べる視聴率調査に加えて、東京の三〇キロメートル圏の十三歳から六九歳までの男女一〇〇〇人を対象に「テレビ番組カルテ」という調査も年二回行っているという。総合的評価、クリエイティブ(創造的)要素、視聴の際の積極度、スポンサーなどの項目を内容的に評価するもので、質も考慮したいわば視聴者の評価カルテである。一般の個人には公表していないそうだが、法人には客観的な指針としてデータを提供している。

しかし、いずれにしても民放ではスポンサーの意向は強力だ。“数字”が取れるか取れないかでCM広告料に大きく影響し、ひいては担当者の出世にも響く。これからの時代、BSデジタル放送開始、多チャンネル化等による多様な番組作りに期待が高まるという人々がいる一方で、逆に地上波のキー局では、流行に敏感で購買力も高いといわれる若年世代に焦点を当てた番組作りがますます進むと危惧する関係者もいる。有料放送の普及により番組制作費の財源が視聴者側に移れば、「お金を払ってまで見たくない」と好みはさらに選別化する。しかしそれとて残念ながら必ずしも良質な番組の生き残りを意味するものではない。四人に一人が高齢者となる時代、いったい私たちはテレビに何を求めるのだろうか。

 

 

 

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