当世高齢事情 No.20
公証人 清水勇男
最後の幕
「先生、ここに30万円用意してきました。これで火葬と納骨をお願いします」
「…どういうことでしょうか?」
公証役場には、ときどき訳のわからないことを言ってくる人がいます。戸籍謄本や住民票がほしいとか、印鑑登録の手続きがしたいというのは珍しくありません。看板に「役場」という字が入っているので、区役所の分室か何かだと勘違いするらしいのです。ただ、火葬と納骨の依頼というのは初めてで、びっくりしました。しかし、話を聞いてウーンと唸ってしまいました。
84歳だというその老人は、身寄りがなく、公営のアパートで独り暮らしをしているのですが、最近、体調がすぐれず、もしポックリ死んだら自分の遺体の始末などはどうなるのか心配になり、役所に聞きに行ったのだそうです。役所では、お気の毒ですが、行路病者の死亡、つまり行き倒れという取り扱いになるので、公費で火葬に付し、遺骨は公営の共同墓地に埋葬することになります、と説明したので、実は、四国に父母や先祖が眠る墓があり、自分の遺骨をそこに運んで行って埋葬してもらえないかと頼んだところ、それはできませんという答えだった。そこで何故できないのか言い合いになったらしいのです。
老人の一方的な話だけなので、どこまで真実なのかよくわからないのですが、役所ではそういう予算がないというので、じゃあいくらかかるのかと老人が聞いた。