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老いの住まい No.8

本間郁子

 

入居者と介護保険

生きているという意味

 

久しぶりにボランティアをしている特養ホームに出かけた。歩いていても電車に乗っていてもみんなの顔が思い出され会いたくなったのだ。

居室に行くと、Nさんが廊下のテレビの前に座っているのが見えた。目が合うと、「あらっ! 来てくれたの」。顔いっぱいの笑顔で迎えてくれた。私は、この笑顔がとてもうれしく、疲れも吹き飛んでしまうのである。

昨年、モデル認定で要支援と判定された時は、私の顔を見ると涙をポロポロこぼし、声も出ないほどだった。今、Nさんは、「要介護度1」である。判定が出た時、「よかったね」「これで安心だね」とみんなで喜びを共にした。「要支援」から「要介護度1」と判定されて喜ぶというのは何とも変な気持ちになるのだが判定の後、Nさんは確かに涙を見せなくなった。

昨年、このホームにもう1人要支援と判定された男性がいた。その人は、5月に突然の心臓発作であっけなく亡くなってしまった。

Nさんと話しながら、住み慣れたこのホームに居られるという安心感は感じ取れるのだが、一方で、心の中に何かむなしさを感じることがしばしばある。Nさんが、「毎日、毎日テレビばっかり見て暮らしていてもね。5年も生きるのはしんどいよ」と、足をさすりながらポツリと言った。「最近は足が痛くて、ホームの中を歩くのがやっと。職員に付き添ってもらわないと外に出られないのだが、職員は前よりもずっと忙しくなって声もかけられなくなった。

 

 

 

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