こんな前知識を持って県営住宅を訪れたら、市の社会福祉協議会の呼びかけに応じて、集会室に集まったのは、なんと30数人! まあ10人ぐらいは来ていただけるかなと期待はしていたのですが、あまりの多さに、どんなふうに取材をしたものかと戸惑うことしきり。
せっかくだからと、住宅地図を広げ、「まず、第一号棟の方、集まってくださ〜い」。一人ひとりの住居を確認した後、互いに何かあったとき誰に助けを求めるのか、どうやって見守りをし合っているのか、などと聞いていきました。
まことに原始的な取材方法でしたが、そこで各自それなりの知恵を使っているということがわかってきました。たとえば見守りが必要なAさんについては、何事もなければ毎朝障子やカーテンを開けてもらう。閉まっていたらアブナイと、向かいの棟のBさんやCさんが感づいて、行ってみる。念のためと、カギを預かり合っている同士も見つかりました。
カーテンだけでなく、夜になって電気がついているかいないかで安否を確認し合っている同士もありました。出かけるとき「留守にしますから」と隣人に一声かけているようです。
各棟に必ず、男子の一人暮らしの方がいるので、皆さんはどうやって気をつけてあげていますかと聞くと「私が様子をみている」とか、「隣の母子家庭が毎日訪問しているよ」などと、ほとんどは誰かの見守りを受けているようでした。住民も案外やっているのですね。
先程、銭湯や医院など、皆が自然に出会う場所でも安否を確認し合っていると言いましたが、そんな自然な出会いのチャンスはその他にもどんなものがあるのか、皆さんに聞いてみたら、1]スーパー(2店)、2]畑や花壇(各棟にある)、3]ゴミ集積場(週4日出会う)、4]美容院、5]集会場、6]草取り(年数回)、7]グランドゴルフ、8]ふれあい会(一人暮らしで集まりの悪い人たちを誘っての集い)、9]皆が寄り集まる家(同じ一人暮らしで、仲間が数名寄り集まる家。各号棟に1軒はあるようです)、10]水道料金や月掛け貯金などの徴収の際などと意外なほどたくさんあることがわかりました。
こうした住民の知恵の一つひとつを他の場所でも応用していけば、完壁な見守りの網を築くのも可能かもしれないと思い始めました。