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つまり、看護には生活を見る視点が必要なように、介護には体を見る視点がもっと必要なんです。でも現実にそれができていないのは、一つには介護と看護の連携がうまくいっていないから。施設なんかでもそうですよね。看護職は介護職に対して、“こんなことも知らないのか”と突き放してしまうことが往々にしてあるんです」

お互いに目線を合わせないことでケアの質が落ちる。だから、介護も看護も両方知っている人間が間に立つことで、現場を変えていきたいという思いが、長尾さんの中にフツフツと沸き上がってきた。そして、枠を外れて自分のやりたいことがやれる立場に身を置きたいと、あえてフリーとして働く道を選んだのであった。

「今はその第一歩として、二級講座などを通じて下の人を育てつつ、施設などの現場では上の人たちと連携しながら、介護職全体の質を上げていくことに力を入れています。また介護職というのは、理想と現実のギャップに悩んだり、人間関係に悩んだりして、離職率が非常に高い。だからそういう人たちの悩みを聞いて、もう一度自分の仕事を見つめ直す手助けをするような“よろず相談所”的な仕事もしたいと思って、少しずつ取り組み始めているんですよ」

看護職についてから早一五年。「どうすればお年寄りが死の瞬間まで、尊厳を持って生きられるか」。それだけを追い続けて、ここまできたという長尾さん。

「おかげで、介護も看護も見られる人間にはなれたけど、半面、どちらも中途半端になってしまった気も。だから最近は、今の仕事を全部辞めて、もう一度、介護か看護の現場に戻って勉強し直そうかと思うこともあるんですよ。ただ、たとえ現場に戻るにしても、戻らないにしても、これまでのキャリアを生かして、何らかの形で看護と介護のかけ橋的な存在になっていきたいとは思っている。まあ、なんだかんだえらそうなことを言っても、私の場合、ただ、お年寄りが好きなだけなんですよ(笑)」

現場にいる人たちのこういう熱い思いが、高齢者福祉の世界をよりよいものにしていってくれるに違いない。今はまだ夢の途中。迷いながら、悩みながらも、長尾さんの挑戦はこれからも続きそうだ。

 

 

 

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