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そして、正規の仕事以外に三つも四つもの病院でアルバイトをしながら借金を返済後、二二歳で結婚。その後の離婚、再婚など激動の日々を送りながらも仕事を続け、「二〇代はキャリアの蓄積をする」との自らの立てた目標をクリアすべく、“お年寄り”をキーワードに、特別養護老人ホームや訪問看護ステーション等などでも経験を積んでいった。

プライベートがどんな状況であれ、仕事に対してはいつも前向きな人なのである。こうしてお年寄りの看護にいろいろな角度から取り組む中で、いつしか介護に目が向くようになったという。

「訪問看護の仕事では、在宅でお年寄りや病人を見るということは、看護よりも洗髪や食事など日常の世話をすることのほうが重要だということに気づかされた。また特別養護老人ホームでは、若い介護職の人たちの働く姿を通して、看護はシステマティックになりすぎて、人を見ていないんじゃないかとも考えさせられました。というのも、たとえば看護というのは具合が悪ければ即、治療ですが、たとえ治療を施さなくても、背中をさするだけで具合がよくなってしまうこともある。ああ、人と人がふれあっていけば、何か通じるものが生まれるのかと感動しましてね。そういう心の部分を看護職は忘れていると思ったんです」

介護職が大切にする心のケアを学んで、介護も看護もバランスよく見られる人間になりたい…。そう考えた長尾さんにとって、次なるキャリアの蓄積として、介護の道に進むことはごく自然な流れだった。

 

介護職に足りないのは体を見るという視点

 

こうして二七歳の時に、介護支援事業を行うベネッセコーポレーションに契約社員として入社。介護センターの主任スタッフとしてホームヘルパーの職に就いた後、同社のホームヘルパー二級講座の講師となった長尾さん。

「介護の現場に入って実感したのは、介護職には絶対的に医学的知識が足りないということでした。お年寄りを見るときに生活面だけを見ていて、その人の望ましい生活ができるかというと、それはあり得ないと思うんです。高齢者にどういう病気が多いのか、それはどうして起きるのかといったことぐらいは知っておかなければならない。

 

 

 

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