決して、白衣の天使にあこがれたわけではない。どうしても就きたい職業というわけでもなかった。だが高校一年の夏、老人病院で一か月半、看護助手のアルバイトを経験したことで、長尾さんは変わった。
「この時に、身寄りのない末期がんのおばあさんの最期を看取るという経験をしたんです。カトリック系の病院だったこともあって、その瞬間には神父様もいらして、非常に尊厳の守られた亡くなり方をしましてね。その時にターミナルケアについて考えさせられたのと同時に、看護学生だった私はただ手を握っているだけしかできず、その何もできない自分がすごく悔しかった。そして心から、つらい状況を手助けできるような人になりたいと強く思ったんです」
その思いを胸に刻み、「一生看護婦としてやっていこう」との決心を固めた長尾さんは、高校卒業後、准看護婦として地元の大学病院に就職を果たした。
介護も看護もバランスよく見られる人になりたい
当初は働きながら、病院附属の看護専修学校に通い、正看護婦の資格を取るつもりだったが、一年後、父親が体を壊して店をたたまざるを得なくなったことから状況が一変。入院費の工面に借金の返済、そして両親の生活を支えることまでが、一九歳の長尾さんの細腕一本にかかってきてしまったのだ。
「それで進学はあきらめて、夜勤もできる病院に移ることにしたんです。そのほうが稼げますからね」
そんな長尾さんが新たな就職先として選んだのは、高校時代にアルバイトをした老人病院。あの夏の体験から、いずれはお年寄りの看護にかかわりたいとの思いを持っていたからだ。