指導員役の女性ヘルパーは手早くポータブルトイレを使ってAさんに用を足してもらったあとベッドを据えた畳部屋に高校生を招き入れ、「今日は若いお兄ちゃんたちがお客に来ましたよ」とやさしく、しかしはっきりと語りかける。昼間独居のお年寄りにとって来客は楽しみの一つ。Aさんは棚の茶菓子を勧めるようヘルパーを促し、「ヨメゴはまだが?」と問いかけると緊張していた高校生も気分がほぐれてくる。その一人、及川裕作君は介護短大進学志望。Aさんの手を取って家の中の廊下を往復するリハビリを手伝った。
お年寄りに触れて「福祉の仕事をやりたい」と決意を新たに
及川君に誘われてきた鈴木三友君はAさんの求めに応えてお湯を茶碗に入れてあげ、お年寄りは真夏でも冷たい水より熱い湯を欲することを実感する。実習を終えた及川君に感想を聞くと「福祉の仕事をやる気が前より強くなった」と頼もしい答え。三人は「長生きしてください」と丁寧なあいさつを忘れずにヘルパーの運転する小型車に同乗し次の訪問先へと飛び出していった。
今年は介護保険がスタートしたためか予想以上にスクール参加申し込みが多かった。このため家庭訪問の手配がつかず、一部の中学生は老人保健施設や特別養護老人ホームでの施設サービスを実習した。二日目の参加者は三四人。この日は朝から家庭訪問へ。一部の中学生は知的発達障害者施設の「ふじの実学園」で施設実習。午後は訪問看護ステーションの理学療法士の指導で車イスなど福祉用具を使った介護体験などに取り組んだ。二日とも皆勤して修了証をもらった生徒は二八人。昨年の倍に増えた。
若者との交流を通じて介護専門職が福祉の原点に返る
スクールの目的は三つ。1]日ごろ福祉現場に触れることの少ない若者たちが介護を必要とする高齢者のケア体験や在宅ケアスタッフとの交流を通して介護技術を習得し、その後の人生を豊かにする、2]在宅ケア専門職が若者たちとの交流によって刺激を受け、在宅福祉の原点に立ち返る、3]保健・医療・福祉の連携に対する理解を深め、将来の福祉社会のマンパワー育成の一翼を担う―ことである。