庭にはいろんな珍しい花が植えられてあります。私もつい「この花は何ていうの?」と聞いてしまったぐらいです。当然ながら、散歩中の人は大抵、立ち止まって見入っています。じっくり見たい人のために手回しよくベンチも置いてあります。そのチャンスを逃さず「どなた?」とひと声かけるのが彼女のクセ、というよりも「私って、人見知りをまったくしないタチなんです」と。「よかったら、持って行ってください」と差し上げつつ、もう一歩相手のフトコロに入っていきます。
やがて「おたくの家に行ってもいいですか?」と進み、それがきっかけで、隣接の看護学校の職員宿舎に出入りするようにもなりました。親しくなった教授を、分館の健康講座の講師に引っ張り込む。行動に無駄というものがありません。ついでに遠くに住む妹の母乳の出が悪いと訴えて、わざわざ電車を乗り継いで出向いてもらう、というように、助けてもらうテクニックもなかなかのものです。
忙しくて畑の手入れができないと悟るや、裏隣の奥さんに「自由に使ってちょうだい!」。公私の区分けがないと同時に、自分のものと他人のものという区分けもないらしい。それで、できたものはちゃっかりいただいちゃう。忙しくて食事を作る時間がないときは、お隣に行って「ご飯、食べさせて!」と、まったく遠慮がない。
むろん、いただくだけではない。「人を楽しませるのが趣味」という彼女は、ヒマさえあれば、なにか面白いゲームや手工芸を考案しては、近隣の人たちに「ねえねえ、こんなことやらない?」と誘いかけています。取材に訪れた私も、「さあ、手をつないで!」とゲームをやらされてしまいました。分館のイベントや講座にも近隣の人たちを誘うようにしているものだから、分館長さんはありがたい隣人だ、と異口同音に言っています。「ご飯を食べさせてあげるぐらい、お安いご用」というわけでしょう。
これまで、助けられ上手さんや助け上手さんは紹介済みですが、彼女のようにその両方の腕(しかもご覧のように、かなりのすご腕)を持ち合わせている人はめったにお目にかかれません。活動家が自分の足元の近隣でその腕を縦横に生かせば、かくのごとく見事な「近隣起こし」ができてしまう、ということをK子さんは教えてくれました。