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ふれあいボランティア考

 

タクシーにて

 

「お客さん、ボランティアってしたことあります?」

先日乗ったタクシーの運転手さんがミラー越しに尋ねてきた。「はっ?はい、まあ」夏真っ盛り、乗り込んだばかりで車内の冷気にひと心地着いていたこちらはいきなりの質問に戸惑ったが、次の瞬間取材の虫が疼いて言葉を継いだ。「運転手さんはやってるんですか?」。客に質問してくる人はだいたいがおしゃべり好き、答え方で相手の様子を察して、イケるとなれば延々と話が続く。業界の話、有名人を乗せた話、身内の話、こちらも嫌いではないから「へえー、そうなんですか。それで?」と乗せるように相槌を打つ。でもボランティアをしてるかと聞かれたのは初めてだ。

「いえね、孫が娘と一諸に出かけて来ましてね」と話し始めたところによると、小学生になる孫の男の子が運転手さんの娘である母親たちと一緒にお弁当を作って近所のお年寄りと懇親会を持ったのだとか。実家に帰省してきた時に「そりゃもう、肩を叩いてくれたり足を揉んでくれたり、大騒ぎでね」と、顔を後ろに振り向けながらうれしそうに話している。

(アノ、運転はしっかり前を向いて…)と言いたくなるほどの好々爺ぶり。「ボランティアなんて何だか怪しげに思ってたけど、話聞いてみりゃ昔は当たり前のことですよ。あれはいいね」。そうそう、そうなんですよ。「でも加減もなく叩くもんだから、逆に肩が痛くなっちゃって」と語る人の良さそうな笑顔。「すみませんでしたね。くだらない話しで」。降りがけに謝る運転手さんに「いえいえ。素敵な話しだからどんどんみなさんに話してくださいよ」と言ったらまたうれしそうにうなずいた。こりゃ相当エンジンかけちゃったかな?次のお客さん、ごめんなさい…。

 

 

 

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