とはいえ、すべてが順風満帆というわけではない。たとえば、いくらがんばっていいものを作っても、まだまだ規制が多く、そのため、各地でサービス展開をすることができなかった。また同社では、この四月からは介護保険事業への参入も果たしたが、ここでも行政当局とさまざまに戦っている。
「介護保険事業として、うちでは三〇分二一〇円でヘルパー兼ドライバーを貸し切るサービスを打ち出したんですが、行政は用途制限を付けたいと言う。通院、通所、買物以外は認められないと。では、選挙に行くのはどうか、墓参りはどうかと聞くと、選挙は日常生活を支援するものだから構わないが、墓参りはダメだという。ならば、連れ合いの命日に墓参りに行きたいという人に墓参りをさせないつもりかと問いただすと、そう言われると困ると口ごもる。おかしいと思いませんか?本来、日常生括支援に境目なんてないはずなのに。趣味や生きがいづくりなどに、お年寄りが外出できるようになれば、元気にもなって寝たきりが予防できる。それは介護保険の目的とも一致するはずだと思うんですがね」
介護保険でどこまでのサービスを提供すべきかはむずかしい問題だ。日常生活支援をすべて賄えば財政はすぐに破綻してしまう。だが「利用者中心」の制度としてみなで考え育てていくことは重要だ。木原さんの場合は、タクシー嫌いがゆえにケアタクシーという誰も思い付かなかったサービスを生み出した。そして介護保険のあり方にも独自の思いをぶつける。半ば成り行きとはいえ、時代が変わろうとする時には、彼のような“異端児”の力が必要なのかもしれない。
「大言壮語するようですが、ケアタクシーを通じて人間が生きることの意味を社会に問いかけたいと思っています」
志を高く掲げ、ロマンを追い求めれば、新たな世界が眼下に開けることを実感した木原さんの挑戦はまだ、幕を開けたばかりのようだ。