ケアタクシーには、孫悟空と彼の乗り物であるきん斗雲を表したステッカーが張られている。
ならばドライバーに介護の精神や技術を身に付けさせて、彼らをきん斗雲を操れる孫悟空にしようと考えたんです」
こうして“きん斗雲”構想の実践に向けて、社内から志願者を集めて研修を始めた木原さん。その内容はホームヘルパー二級資格の取得に加え、高齢者や障害者を教師とした実践的な外出介助などで、合計で三〇〇時間にも及んだ。
「とにかく、タクシーの持つ社会的イメージを払拭して信頼を取り戻すには、彼らを上質なヘルパーに育てなければならない。そのためにも、他人の痛みを自分のものとし、喜びを共有できる人間力の回復を目指して、徹底的にドライバーの意識改革を試みました」
そして従来のタクシーとの差別化を明確にするために、タクシーはケアタクシー、ドライバーにはケアドライバーとのネーミングを付けた。
「成功する保証などどこにもありませんでしたが、どうせ今のままでもタクシーはダメなんだから、何か新しいことを始めたほうがおもしろい。それでコケたら、笑って許してで終わればいいやと。自分の会社ならつぶれても自己責任が取れますからね(笑)」
反響は予想以上。瞬く間に全国へと拡大
だがふたを開けてみると、介護ブームという時代の後押しもあって、反響は木原さんの想像をはるかに越えていた。業界の内外にケアタクシーの存在は波紋を呼び、利用者数はその信頼が増すと共にうなぎ登り。また全国のタクシー会社からの見学や研修要請もひっきりなしで、瞬く間にケアタクシーは全国に広がっていった。
「“異端”は認めないという風潮が強い世界ですから、一〇年前だったら業界や行政から総スカンを食って、とっくに潰されていたはず。でも潰さないというのは、時代の流れなんでしょうね」