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安次郎おじいちゃんがくれた手紙の一節には、「時代はもう機会均等法が通ってすでに幾年も経っているのですから、夢を大きくふくらませますように」とあり、実の祖父母とはまた違う親密さで語りかけてくれる安次郎おじいちゃんから学んだものは大きかった。

 

手紙は自分と向き合うひととき

 

池畑亜由美さん(二六)は橋下先生のような体育教師になりたいと順天堂大学に進み、大学院修士課程を経て、今はスポーツ健康科学部で水泳の非常勤講師を務めている。小学生で水泳を始め、九州女子高では体育コースを選択し、水泳の練習と試合に明け暮れていた。

橋下先生に勧められて野の花だよりの活動を始めたのは高二の時。クラス担任ではなかったが、部活の水泳部の運営や進路のことで悶々としていた池畑さんの悩みをドンと受け止めて、「自分の思うようにやってみたらよか」とトンネルの出口を示してくれたのが橋下先生だった。

奈多創生園の光司おじいちゃんへの手紙には、景山さんと同じようにいつも自分のことばかり書いていた。「毎朝七時からの朝練に始まって忙しく暮らしていたので、家で手紙を書くひとときは自分と向き合う時間でした。橋下先生はそういう余裕を与えようとしてくれたんだと思います」と池畑さんは振り返る。

高三のインターハイが終わって、初めて光司おじいちゃんに会いに行った時のことを今でも鮮明に思い出す。「痴呆があるけん、わからんかもしれんよ」と奥さんは言ったが、光司おじいちゃんは「ありがとう」と涙をこぼしながら手を差し出して迎えてくれた。手紙でこちらが伝えようとした気持ちは、痴呆があってもちゃんと通じていたんだ、とその時強く思った。

「この体験が今の私の原点になっています」と池畑さん。伝えたいと思うことを精いっぱい伝える。やりたいと思うことに精いっぱいチャレンジする。そうすれば、必ずわかってくれる人がいて、人と人のつながりが生まれ、次に道が開けるということを経験してきた。

 

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