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その後北九州の看護学校に進んで、卒業後は福岡赤十字病院に就職し、手術部に勤務している。病棟担当の看護婦に比べれば一人ひとりの患者と接する時間は短いが、気にかかる患者がいれば手術前の病室を訪ねて、緊張をほぐすように話をする。

「手術前の患者さんは不安でいっぱいなので、質問があれば答えたりして、不安を少しでも解消してもらえればと思って」。亀川さんが「手術室でお待ちしています」と言うと、患者は「待たれていてもなあ」と苦笑するが、こうしたやりとりが患者をリラックスさせる。相手の立場に立って、相手の気持ちを想像してみる。それが思いやりということだ。そして、自分にできることをする。そこに流れている思いやりの回路は、高校生の亀川さんがゆくおばあちゃんに送った野の花だよりの思いと同じものである。

 

高校卒業後も続いた文通

 

景山禎子さん(二三)は亀川さんの二年後輩に当たる。市内の短大に進んで、卒業後はコカ・コーラウエストジャパンに入社した。会社では人事部に所属し、OB会事務局を担当している。

多くの人は忙しい日々の生活の中で、ともすると思いやりの回路をどこかに置き忘れてしまう。しかし、煩雑な仕事の中でそれをさり気なく実行しているのが景山さんだ。

事務局では二か月に一度、OB一三五人に社内報を送っているが、景山さんはこれに必ず手書きの送付状を添える。文面は季節のあいさつと「ご自愛ください」などごく短いものだが、同僚は「なんで手書きで書きよっと」と言う。確かにパソコンのほうが速いし字面もきれいだが、景山さんは「手書きのほうが何となく気持ちが伝わるような気がして。わざわざお礼状をくださるOBの方もいらっしゃるんです」とほほ笑む。

 

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