それがうれしくて、生徒たちが書き送ったハガキや手紙をまとめて(二枚書いてもらい、一枚は学校に保存している)、毎年「野の花だより」の文集を自費で出版してきた。今年で文集は一〇冊になった。
「文集を作り続けられるのは生きている証。私自身が野の花の生徒たちに支えられてきたのです」。文集を開くと、野の花の一期生から現在いる在校生まで一人ひとりの顔が浮かび上がってくるという。
看護婦になる夢を見つけた
亀川美紀さん(二六)は野の花の一期生。一年生の時の担任が橋下先生で、クラスのみんなで文通に取り組み、奈多創生園の「ゆくおばあちゃん」に毎月欠かさず書いた。でも、返事は来なかった。返事が来る友達がうらやましくて「どうして返事がないとやろ」と思ったこともあったが、創生園におばあちゃんを訪ねてみて、わだかまりは氷解した。九〇歳を過ぎたおばあちゃんはとても返事を書ける状態ではなかったのだ。
「手紙を書くことがなぜボランティアなのかわからなかったけれど、面会に行って初めてその意味がわかりました」と亀川さん。自分のことや学校の様子などを書いてきたが、おばあちゃんはとても喜んで、毎月、心待ちにしてくれていた。野の花だよりがそういう心のふれあいを運んでいることに気づいたのだった。
亀川さんが「人に喜んでもらえる仕事がしたい」と、将来は看護婦になることを決めたのは高一の時だ。そして、進路が決まった三年生の一二月に、こんな手紙を書いている。
「おばあちゃんへ お元気ですか? 今年は暖かいですね。外へ出るとき、上着を着なくてもいいくらいですね。(中略)それからお知らせがあります。看護学校に合格しました。ようやく肩の荷がおりたように思います。また、おばあちゃんにありがとうとお礼をいいたいです。おばあちゃんに手紙を書いたり、会ったりしたことで自分の夢を見つけ、その夢がかなったのですから。おばあちゃんありがとう」