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自分たちの書く手紙をこんなにも喜んでくれるお年寄りがいる。それを知って、生徒たちはもっともっと書きたいと思うようになり、相手のお年寄りを「私のおじいちゃん」「私のおばあちゃん」と呼んで親しむようになった。

それでも、返事が来るのはいつも決まった人。返事がないことを不満に思ったり寂しく感じる生徒もいたが、その気持ちが一変するのはホームにお年寄りを訪ねるようになってからだ。相手のお年寄りが寝たきりだったり目が不自由だったりという現実を目の当たりにして、返事が来ない理由を知ると同時に、まるで宝物のようにもらった手紙を枕の下や箱の中から取り出すお年寄りの姿に、「返事は要らない」と納得し、手紙を書くことに無償の喜びを感じるようになっていった。

 

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病を得て見えてきたもの

 

この活動が橋下先生のクラスの枠を越えて、希望者は誰でも参加できる活動に広がったのは三年目から。クラブ活動でも生徒会活動でもない有志による「野の花だより会」とし、自分たちから進んでお年寄りと交流するまったく自発的な活動がスタートした。

書きたいから手紙を書く、会いたいから会いに行く。「させられる」のではなく、自分がしたいから行動する。野の花だより会の生徒たちの活動はまさにこれである。

一九九三年の秋にはNHKの番組「新日本探訪・ハッシー先生の秋」で橋下先生と野の花だより会の活動が放映され、全国から二〇〇通を超える反響の手紙が寄せられた。毎年、郵便局や市内のデパートで生徒たちが書いたハガキの展示会も開催、福岡市民にも広く知られるようになった。そうして一〇年が過ぎた。

橋下先生は「正直なところ、ここまで続けられるとは思わなかったですね」と話す。この一〇年は橋下先生にとっては決して短いものではなかった。

 

 

 

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