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「やっと一〇周年という気もするし、あっという間だったような気もします」と振り返る橋下先生が、初めてお年寄りと生徒との文通を提案したのは一九九〇年のことだ。受け持ちだった一年生のクラスの生徒たちに、何か社会とのかかわりが持てる活動をさせたくて、半ば強制的に勧めたのが特別養護老人ホーム、奈多創生園のお年寄りにハガキを書くことだった。

核家族の中で育ち、老人と接する機会が少ない生徒たちにとって老人ホームのお年寄りは遠い存在で、初めは戸惑うことばかり。「先生から言われたから書く」という消極派も少なからずいたし、見ず知らずのお年寄りに何を書けばよいかわからないと頭を抱える生徒もいた。橋下先生は「まず自己紹介から書いてみたら」とアドバイスし、毎月定期的に生徒が書いたハガキを取りまとめて老人ホームに送り続けた。

最初から相手のお年寄りを一人ずつ決めてマンツーマンで書かせたが、生徒たちの反応に変化が見られるようになったのは、ぽつぽつと返事が届くようになってから。不自由な手で書かれた震えるような字面には、手紙をもらった喜びとお礼の言葉が切々と綴られていた。

 

私立九州女子高等学校(福岡市中央区)の橋下京子先生が生徒たちに呼びかけて始めた「野の花だより」の活動が今年一〇周年を迎えた。生徒たちは「野の花だより」と名付けた手紙を地域の老人ホーム等のお年寄りに毎月書き送り、時にはホームに訪ねて交流を深めてきた。これまで活動に参加した生徒の数は七〇〇人余り、橋下先生は生徒たちにどのような指導をしてきたのだろうか。そして、社会人となった卒業生たちの心に、橋下先生との出会いと「野の花だより」の活動はどのように息づいているのだろうか。今は病気療養中の橋下先生と、先生がまいた“心のふれあいの種”を大切に育んでいる三人の卒業生を訪ねた。

 

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