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当世高齢事情 NO.17

公証人 清水勇男

 

お盆の墓参り

 

妻が「どう考えても変です」と言います。お盆にはご先祖様がこの家に帰って来ているので、お墓は留守のはずだ、その留守のお墓にお参りに行っても意味がない、と言うのです。89歳になる母は母で、お墓が留守で空っぽになるはずはないと頑張っています。

神無月にも同じ問題が起こります。毎年10月、神無月には全国の神様は全員が出雲大社に集合するというのですから、大社以外の神社には神様はいないことになります。そうすると、10月のお宮参りや神前結婚などは意味がないことになってしまいます。

わが家では、お盆が来ると、玄関の前に飛騨コンロを据え、小さく丸めた新聞紙に火をつけて苧殻(おがら)を燃やし、その火をロウソクに移して提灯にあかりを入れ、「ご先祖様、今年もようこそお出でくださいました」とか言って、見えない先祖の足元を照らすようにしながら仏壇に導きます。その提灯の火を仏壇と盆提灯のロウソクに移し、お線香を上げ、鐘を鳴らしてご先祖に挨拶をする。それから3日間、漆器の食器でご飯や吸い物、おかず、果物などを供えてもてなし、お盆が終われば送り火を焚いてお送りするという行事を毎年しています。この3日間のうちにお墓参りに行くのも慣例になっています。

「聞いた話だけどな、お盆には近いご先祖だけがやって来て、遠い先祖はお墓にいるんだと。10月には神様は出雲大社に集まるんだが、分霊が各神社に留まっているんで、別に矛盾はないんだそうだよ」

 

 

 

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