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それでもできない仕事は、家に持ち帰ってやる。そうしなければ、仕事が順調に進まなくなるからだ。でも、そういうサービス残業をしてまで、一生懸命仕事をする気にはもうなれないという。調理員4人は全員解雇になった。委託業者に替わったのである。調理員の中には21年も働いてきた人がいた。入居者一人ひとりの嗜好をよく知っており、体調が急に悪くなって、食べ物が受け付けられなくなると、あの人は、プリンなら食べられるといってすぐにプリンを作り、のどごしがよいように冷やして食べさせた。自分に関心を持ってくれる人がいる、大事にされているということを知ることは入居者にとって、大切な心の支えであった。このようなことは結局評価されない仕事なんだと職員の落胆は大きい。50代の職員は、いずれパートに替わってもらうと断言する施設長もいて驚く。

介護保険制度になって、職員数はこれまでの4.1対1から3対1に改善されたもののまだまだ不足している状態だ。入居者が高齢化、重度化しているため手がかかり、職員数を増やすためにはパートに切り替えないと施設経営ができなくなるという。ドイツやオーストラリアでも職員数や予算の不足が原因で入居者への虐待が明らかにされている。日本でも質の悪化につながらないよう、職員の態勢を十分に整える必要がある。

 

 

 

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