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場所は板垣宅。酒は抜き、お茶請けを一品、「家族の手を煩わさぬ程度で手元にある物」を持参することとしました。結局、その日集まったのは4名。

女性に比べ寡黙になりがちだとは彼も初めから予想していたことで、沈黙が続けば彼自身が「振る」ようにしたといいます。初対面の間柄では、自分のことは言いたがらないもの。そこで「こっちがまず自分をさらけ出すように心がけました」

「男たちだけで何をしているのか」気をもんでいる細君のために、開催後、結果報告のチラシを配布。不参加者にも配って、次回以降の参加につなげる作戦も忘れません。

話題は「土地、株、料理、趣味、宇宙、パチンコ、理髪、有料道路、近くのK川、散歩、図書館、韓国、病気、痴呆、はげ、ひげ、名刺、居住年数、晩酌、焼鳥、価値観」と多彩で、いかにも男の集まりらしいと思われる話題が少なくありません。

「最愛のご主人を勇気をもって送り出してくださった奥様の名誉のためにも記しますが、奥様の悪口や女性に対しての非難中傷はまったく出ませんでした」とも。

加えて、なかなか興味深いことも付け加えられてあります。「近くのK川の早朝散歩中、私語の大きい人がいて、沿道に住む人々が目を覚まして困るという話が出たので、市役所に対し、立て看板の設置を依頼してみましたので、実現するかもしれません」。井戸端会議で出たメンバーの困りごとをただ聞き逃さず、きちんとその解決行動を取ったわけで、こういうことでメンバーの信頼が得られるのでしょう。最近看板が立ったそうです。

その後もほぼ隔月の頻度で、しかも各家の持ち回りで開かれているとのこと。参加者は今は彼を含めて6人。「その気ならもっと増やせる」と板垣さんは言いますが、まあ井戸端会議の規模としては、この程度が妥当かなとも考えられます。

このごろは道で出会えば「よお!」と手が上がるようになったとか、留守のときにカギを預かる間柄になった者もいるとか、これをきっかけに奥さん同士のふれあいにも発展したなどの副産物も出てきたようです。

以前、自治会長をしていた時、防犯のことがいつも頭にあったし、近瞬の葬式に出向いても知らない顔が多く、「やっぱり近所付き合いをしなくちゃ」と痛感していた板垣さん、「男の井戸端会議もちゃんとできるという自信ができました」と晴れ晴れとした顔で語っていました。

 

 

 

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