当世高齢事情 NO.16
公証人 清水勇男
待合室にて
眼科の待合室で、文庫本を読みながら順番を待っていると、隅のほうで年配の女性が3人、クスクス笑いながら話をしていました。そのうち声がだんだん大きくなり、どっと笑い声が上がったので、顔を上げたら、その1人と目が合い、「あーら、先生!」。
半月ほど前に遺言証書を作りに来た人(70歳)でした。
「先生も、目が悪いんだぁ。いつもむずかしい書類ばっかり読んでいるんだもんねえ」
「まあね。何か面白いことあったの?」
「それなのよ。ゆうべね、救急車のサイレンが近づいて来たかと思ったら、うちの店の前でパタンと止(や)んだの。それでちょっと気味わるかったけど、出ていったら、いつも来る焼き芋屋が、薪をつかんでつっ立っているのよ。リヤカーのそばで」
「リヤカーって、手で引くあれ?」
「そうよ。このごろ車のが多くなったけど、このおじさんのは手で引く昔のやつ」
「それで?」
「焼き芋屋のそばに若い男がうずくまっていて、頭から血を流してるの。そのうちパトカーも来た。焼き芋屋、酔っぱらってんのね。お巡りさんに向かって薪(まき)を振り上げたのよ、バカヤロとか何とか言って。相手は3人だもの、たちまちお縄よ。バカねえ。