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受講生は、ボランティアと対象者の双方に聴取し、その結果をすべて住宅地図にのせていったのですが、そこで意外なことがわかってきました。たとえば「つどい」の対象者同士の連絡係を受け持つO男さんは、自宅の周辺を散歩したり、植木をいじったり、カラオケを楽しんだりと、自分流のリハビリを工夫していました。また「つどい」の仲間などで悩んでいる者がいると「俺んとこに電話しろ」と言い、毎日のように彼のところへ電話をしてくる人もいるようです。元大工仲間ともお茶飲み会を開き「お陰でだいぶ明るくなった」と言われる人も出てきました。その人が自分の地区での「つどい」の仲間たちのまとめ役を引き受けていました。

O男さんはまた、彼が家を建てたI男さんの奥さんが、うつ病で沈みがちと聞いて、時折電話をかけてもいるようです。そのO男さん宅を、近所に住む「つどい」ボランティアのN子さんが時々訪問しています。

というように、地元でもただ「対象者」でいるわけではなく、時には活動者になり、その世話を受ける人がまた他の人を世話するという、文字通りの「助け合い」が実現していることがわかるでしょう。

その他にも、T男さんは外出好きで、リハビリを兼ねて近所の「つどい」の仲間たちへ声かけ訪問をしたり、次回のお誘い役もしています。K子さんは自宅に近隣の人たちを集めてサロンを開いたり、近所の老人宅へ話し相手に訪問したりと、ほとんど「活動家」の顔で活躍しています。そのK子さんの近くに住む「つどい」ボランティアのT子さんは、K子さんを含めた近所の対象者たちのよき相談相手になっています。

こういう作業をするとき、住宅地図は大変便利です。地図を見ながら「この人の隣の人は?」などと問いを発すると「そういえば、この人は裏隣のこの家におすそ分けに行っているようですよ」などと新しい助け合いの事実が、芋づる式に浮かび上がってくるのです。読者も一度やってみたらどうでしょうか。

福祉サービスは結果として、そうした当事者たちの自主活動の産婆役を果たしたことになります。とすれば、福祉サービスには、対象者が地元で自主的に助け合いを始めるように導いていく、という役割もあることを知っておくといいのではないでしょうか。

 

 

 

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