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ふれあいボランティア考

 

ボランティアの空気を広めよう

 

文京区音羽。昨年11月に幼稚園児殺害事件の舞台となった東京の音羽通り周辺を、先日仕事のついでにぶらりと歩いてみた。「幼稚園の“お受験”を境に凶行は起きた」、この事件は当初こう報じられた。しかし、ふたを開けてみれば原因は母親同士の「心のぶつかりあい」、というより容疑者の一方的な思いこみによるもの。お受験殺人はいわばマスコミの先走り報道だったようだが、確かに、それもなるほどと思わせるほど周囲には有名大学や付属幼稚園、小学校が集中している。

昼下がり。大通りを行き交う車の喧噪を離れて奥に入る。瀟洒な新築マンションと昔ながらの商店や民家が混在している街。人影少ない中、マルチーズ犬を抱いた中年のご婦人とすれ違った。どことなく優雅な雰囲気が漂うのも落ち着いた町並みゆえだろう。

どの町にもどの会社や組織にも、自ら醸し出す「空気」がある。こうした一見華やかな空気に地方から出てきた内向的な容疑者は自分を見失ってしまったのだろうか。

日本人は特にこの「空気」に影響されやすい国民だといわれる。協調性があるといえる反面、個を殺して時に背伸びをする。異論を表することはその場の空気を乱すことであり、大人げないと批判される。いじめも組織犯罪もだいたいはこうした見えない愚かな空気が呪縛の基になっている。しかし逆に考えれば、よい空気にだってすぐに同調するのである。幸い、ボランティアという新しい空気が浸透してきた。特別な活動から、誰もが普通に行う活動へと変化もしている。人の原点であるやさしさを栄養源としたふれあいボランティア活動にどんどん参加して、社会に温かい空気を広めていこう。どうせ大事にするのなら、私たちを幸せに導いてくれる空気を大切にしたいものである。

 

 

 

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