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当世高齢事情 NO.15

公証人 清水勇男

 

伝家の宝刀

 

「先生、このありさまです」

三角巾で腕を吊るした忠雄さん(72歳、仮名)は、開口一番、言いました。次男の康夫さん(38歳、仮名)に腕をねじ上げられ、骨折したのだとのこと。それまでにも忠雄さんは公証役場に何回かやって来て、康夫から聞くに堪えない暴言を浴びせられ、こんな奴には一銭も残してやりたくない、何とかならないものかと憤慨していたのです。

こういう相談が意外に多いのですよ。麻雀狂の娘から金をせびられて断ると「くそばばあ、早く死んで遺産をよこせ!」とわめき立てられ、悲嘆にくれている老女もいました。

忠雄さん夫婦には、息子2人、娘1人がいて、長男夫婦と同居しています。長男は穏やかな性格で、会社でも重く用いられているとのことですが、次男の康夫さんは中学のころから粗暴な振る舞いが目立つようになり、仕事は長続きせず、パチンコ屋に入りびたりの毎日とか。それで金がなくなると、長男のいない留守を見計らっては金をせびりにくる。それを断ろうものなら「てめえ、それでも親か」「この家の財産は全部俺のものにしてやる。早く死ね。この役立たずのくそじじい!」などとののしるのだそうです。

民法には相続人の廃除の規定(892条)があり、たとえば親を虐待したり、親に重大な侮辱を加えたり、その他著しい非行があったときには相続人から廃除できるとされています。

 

 

 

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