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しかし、廃除というのは、相続人に対し物心両面で大きな打撃を与えるものですから、家庭裁判所では一般に「その行為が客観的にも相続的協同関係を破壊したと認められる程度の虐待、侮辱、非行があったとき」というような尺度で慎重に判断しているように思われます。

「残念ですが、その程度の言葉だけでは、家裁に申し立てても廃除はむずかしいかもしれません」と忠雄さんに言い続けてきたのですが、今度は金の無心を断ったところ「てめえ、この野郎」と胸ぐらをつかまれ、腕をねじ上げられて腕の骨を折られたというのですから、あまりにも悪質で、虐待に当たると思いました。診断書もあります。

「それでは、いよいよ伝家の宝刀を抜きますか」

相続人の廃除は、遺言でもできます(民法893条)。生前に家裁に廃除の申し立てをしたら、康夫さんに何をされるかわからないと恐怖心でいっぱいの忠雄さんは、公正証書で康夫さんを自分の相続人から廃除する、つまり外すという遺言をしました。

廃除の理由には、康夫さんから受けた侮辱や暴行の状況が生々しく記述されています。

親に孝養を尽くすという言葉は、もう死語になってしまったのでしょうか。

 

 

 

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