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「ここに居るとノンビリできる」。自宅ではできにくいと、昼寝を決め込むご仁も。そうやって元気になって帰っていく。要するに「主婦の休日」。誰かが言っていました。「私たちの共同の実家みたいね」

それだけではありません。近くの幼稚園児の(母親がパートから帰るまでの)居場所にもなっています。午後、子供を迎えに来たついでに、昼食をごちそうになるときも。この家では、その気のある人が食事作りをすることになっています。各自、自分の畑から材料を持って来るのでなかなか安上がりのようです。

パートに出ている間の午前中だけでも「預かって!」と赤ちゃんを連れて来るママもいます。うまくしたもので、ここの常連の高齢者(女性)がそのお守り役を引き受けており、それが彼女の生きがいにもなっているようです。養護学校に通っている障害児も、毎日のようにこの家に立ち寄るようになりました。このごろではお母さんが迎えに来ても「帰りたくない!」。みなと一緒に食事をするのを楽しみにしています。

この家にはピアノがあります。家主が置いていったものですが、そのピアノをめがけて、小学生がおさらいをしに来ます(自宅にピアノがないらしい)。そこに在るものはいつかは誰かに使われるものなのか?

ここはまたミニ公民館のような場にもなっています。各自の特技や持ち味を生かして、さまざまな教室が開かれています。籐工芸や指圧、手相、メイク、囲碁、歌(ピアノ)、手芸、フラワーデザインなど、数えてみたら十指に余るほど。一方では先生になり、もう一方では生徒になるという具合に、互いの持てるものを出し合い、いただき合い、それぞれが充足して帰っていくのです。

わずか半年で、稲葉さんが想像していた以上の、多種多様な展開が生まれてきました。初めは「何のために使おうか?」と使途もまったくあいまいだったのに、地域というのはこれを実にうまく生かしてくれるものなのです。特別に目的を定めない家を、ポーンと地域へ投げかけたら、そこを「舞台」に近隣住民がじわりじわりとふれあい・助け合いを始めることがわかりました。

 

 

 

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