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もちろん活字上の並びだけなら拘ることはないが、その後の一部の報道でも財団がシンポジウムに込めた理念が報じられず「大学商店街とまちおこし」という焦点だけがクローズアップされたという反省もあった。しかし、逆にいえば、大学商店街・まちおこしというキーワードを加味したからこそ、そのユニークなプログラムが注目され、そこから本来めざす共生社会への視点も新たな層に訴えることができたともいえる。

夜のショーケースの一部でも財団側が意図するものとまったくかけ離れて、結果「明らかに失敗」(同席者報告レポート)に終わったところもあったようだが、一方で「大変有意義なアイデアで、成果を仕事に生かしたい」「変わったスタイルだが新鮮で実のあるものでした」(参加者アンケートから)という声も多数出るなど全体として好評を得ることができたという。

「でも逆に、プログラムの一面にはしっかりと私のこだわりを入れてもらいましたよ」と和久井さん。1]介護保険への取り組み状況と市民による公益活動の実態を知る、2]二一世紀の健康で活力ある高齢社会へのビジョンの提言、3]「点から面へ」の交流とネットワークづくりの三つである。「それにこの福祉ショーケースも、まさに単独ではできなかった好例なんです」と連合部隊による相乗効果も語る。前年早稲田で行われたエイジングメッセの夜のフォーラムで、ある女子学生が「どうしてパネラーの先生方はみんな帰っちゃうんだろう。残って一緒に話をしたいのに」と言ったひと言がきっかけだという。

「NPOの人たちは自治体担当窓口の人と事務的に接することはあっても、首長や要職の人とじっくり話す機会はまだまだ少ない。そうした機会をつくってあげたかったし、その話の内容もすべて公開しよう。それならショーケースでどうだ、とトントン拍子に話が進んでいった」と話す和久井さんの表情は、毎週のように集まり侃々諤々企画会議を重ねた当時を思い出し楽しくて仕方のない様子。

「それぞれの思惑の中で、どう互いに連携し合えるか。細かくはいろいろ反省点もあるけれど、アンケートを見ても概ね好評だったし反響も大きかった。新しい実験としての収穫はあったと思う」と総括する。

和久井さんと共に財団スタッフとしてこの企画を支えた当時自治体研修生で、現在は京都府と神奈川県に戻ってそれぞれに活躍している丸毛信樹さん、山本千恵さんの両名は当時を振り返って「調整は本当に大変でした」と笑いながらも、「今自分たちの立場で考えてみても、NPOの方々とああして接することができるのは貴重な経験。腹を割って話して、初めてNPOというものがどういうものか実感できるし、そこから本当のネットワークが生まれていくものだと思う」と語る。

 

 

 

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