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堀田 介護ストレスの中でうまく息抜きすることは絶対に必要ですし、そのためには自分の好きなことをして過ごすのが一番、そういうことを一緒に楽しめる仲間がいるのがまた大事ですよ。ところで、痴呆になられてもそこまで奥様と気持ちを通じ合っていけるのは、基本に奥様の人間性としての魅力があるということですが、それはどこから来ているのか、ちょっとお伺いしてみたいなと。

内藤 親から引き継いだ資質、それと田舎でしたから叔父・叔母など親戚の多くの大人がかかわって非常に可愛がり、しっかりとした育て方をしてくれたこと、それと彼女は古事記や万葉集などをずっと勉強していて、こうした書物から学んだものが大きいんじゃないでしょうか。

堀田 「それは私が家内を愛してきて、ずっと温かい家庭を築いてきたからです」というお答えが出てくると期待したんですが(笑)。

内藤 それはないです(笑)。世間一般の男同様に、女房は空気のような存在で家のことは任せ切ってきましたので、過去はまったく自慢できません(笑)。ただ、本当に女房のお陰で私の人生は変わりました。もちろんいい意味でです。会社を辞めて女房の介護に専念するというのはサラリーマンとしては大きな決断だったわけですが、でもやっぱり辞めてよかったと痛感したことがあるんですよ。

堀田 ぜひお聞かせください。

内藤 三月に辞めまして四月に一緒に散歩に出た時に、「もうこれからはずっと一緒にいられるんだよ」と言ったら、本当にニコニコして手をうれしそうに握りしめましてね。それまで玄関で見送るときは、毎朝とても悲しそうな表情だったんですよ。その何とも言えない可愛らしい表情、お父さんとずっと一緒に居られてうれしい、という心の底からの笑顔ですね、そんな様子を見て、ああ、こんなことならもっと早く辞めてあげればよかったと。今も後悔していませんし、ずっとよかったと思っています。

堀田 すばらしいお話を本当にありがとうございました。ぜひお体とお気持ちを大切になさってください。

 

*この対談は3月10日に収録されたものです。当日は休調がすぐれないのを秘して終始なごやかにお話しいただきましたがその後検査の結果、がんと判明し、5月28日に残念ながら急逝されました。内藤聰さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。

 

 

 

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