堀田 まったく逆の発想ですね。
内藤 そうなんです。なるほどそうかと。介護は相手を変えようとするんじゃなくて、こちらが変わらなくちゃいけないんだと、娘を説得しましてね。それから私が袋を持って拾うと、女房がうれしそうに後ろを付いて来るんですよ。「おかあさん、えらいね。ちゃんと自分でできてるんだね」と言って、外に捨てるなとはひと言も言いませんでした。
堀田 そこで叱ったりすると、トイレ自体が嫌になってしまう。
内藤 そうですね。それで歩ける間はずっと自分で行っていました。通院する時なども、外に出ると緊張するのかトイレが近くなるんですが、数駅で途中下車するところを決めて、男子トイレで、私の膝の上に乗せてやらせました。ですから粗相をすることなどほとんどありませんでしたね。
堀田 お話を聞くだけならば簡単ですが、なかなかそこまではできませんよ。
内藤 確かにそうかもしれません(笑)。でも、それで女房が喜ぶ、それだけで励まされるんです。介護ってそういうものじゃありませんか。相手が反応してくれて、それを励みにする。そうじゃないと十数年もやれないですよ。
堀田 生島さんの場合はおばあちゃんが寂しいんですね。耐えられないから絶えず呼ぶ。でも周囲は忙しい、となると大声を出したり、外に飛び出したり。寂しいのが原因ならば結局は誰かが一緒にいるしかないけれども、それはとてもむずかしいことですから、そこを地域の人たちで支え合えるように。
内藤 そうなんです。日本人は他人を家に入れることを嫌がりますし、見てくれや体面を大変に重んじるから、ましてや汚い部屋など見せたくもない。でもいいじゃないですか。外部の人、ボランティアでも何でも入れていけるように、そんな意識をぜひ広めたいと思っているんです。
堀田 介護保険はできたけれどもあれは最低限の身体を看る仕組みで、心の部分は地域の人たちの力を得なければ支え切れない。その両輪がそろって初めて人として尊厳を持って生きることが可能になるわけですから。