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ふれあいボランティア考

言わずもがな…?

 

以前、新聞に『日本の子供 しつけが最低』という記事があった。日本、アメリカ、イギリス、韓国、ドイツの小中学生を対象に文部省が行った国際比較調査で、社会ルールや道徳心に関するしつけが他国より大きく劣っていたという。「うそをつくな」「人に迷惑をかけるな」と親が子供に言う割合は最低。こんなことは社会の基本で言うまでもないことと考えられてきたが、本当に言わない間に、日本の子供は「友達のけんかをやめさせた」など正義感も最下位になってしまったというのだからおよそ困ったものだ。困ったものとは、つまり子供を叱れない親や周囲のわれわれ大人たちのことである。

ようやく最近、学校でもボランティア体験学習などに積極的に取り組もうという動きが出てきた。核家族で育った現代っ子たちも、たとえばお年寄りと接しているうちに、感謝される喜びを知り、自然に人を思いやる心を身に着けていける。ところが問題は大人たちだ。

「ぼく、もう行けないんだ…」、当時4年生というその子はぽつりとこうつぶやいたという。もう5、6年も前のことだが、ある会合で知り合った教師が嘆いた言葉が忘れられない。近くの高齢者施設にちょくちょく出かけていた彼らだったが、その子は親から中学受験のために「活動禁止」を言い渡されてしまったという。親はキャリアの役人だった。

その後、彼の消息はまったく知らない。願わくば、残念そうにつぶやいたその心だけでも忘れていないでほしいと思う。ふれあいのボランティア体験は人の心を大きくしてくれる。言葉で躾けられない上に、そうした体験の場すら奪われたら、いったい子供たちはどうやって人間として成長していけるのだろう。

 

 

 

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