その処理結果により、等価的にパルス幅を圧縮し距離分解能を高める効果とエネルギを集中させることで、短いパルス幅での高出力送信と同じ効果を得る方式である。チャープ(chirp)方式のパルス圧縮処理では、送信周波数の変化パターンに整合している受信信号はパルス圧縮されて大きな振幅の信号として検出されるが、受信周波数の範囲内であっても周波数変化パターンに整合しない信号、つまり、独自に9,300〜9,500MHz帯を掃引しながら送信しているSART信号は、異なった周波数変化パターンの信号となるので雑音として除去される結果になり、たとえSART信号が適度な強度で受信できる状況においてもレーダスコープ上には表示されなくなってしまう。
官民問わず新型の航空機搭載用レーダの多くがパルス圧縮処理を適用しているため、航空機によるレーダ観測では、「パルス圧縮しない観測モード」を使用してSART信号の有無を観測しなければならない。また、一部の航空機搭載用レーダには、地上のレーダビーコンを探知するための観測モードとして「ビーコン・モード」を有するものもある。このモードではパルス圧縮は行われていない。
航空機搭載用レーダでSART信号を捜索する場合には、レーダの機能とSART信号の特性を十分に考慮して適切な観測モードを選択することが重要である。
6.2.2.2 観測結果
今回のSARTの海上実験においても、パルス圧縮が適用されている観測モードではSART信号は全く観測できなかった。航空機の高度はいずれも1,000フィートで「パルス圧縮なし」で観測した結果である。SARTは海面高1mとなるように設置しており、偏波は円偏波もしくは水平偏波で観測した。今回の海上実験において航空機からSART信号を観測できた最大視認距離の観測結果の一覧を表6.2.2-1に掲げる。