6.1.2 水槽試験結果
試験は、各種波浪環境下におけるSARTからの応答波を10〜15分間連続受信してデータを取得し、受信電力の分布を確率的に求めた。
また、試験中は波浪に対するSARTの姿勢(動揺)をビデオで撮影するとともに、擬似レーダ波に対するSARTの応答状況を赤色LED(送信状態を示す)で目視で確認した。
その結果、
・波高の低い波面状況においては、水平偏波は海面(水面)反射波による干渉が起こりやすく、応答が中断する状況がしばしば観測(視認)された
・同じ、波高の低い波面状況において円偏波は受信電力の計測結果にも現れているように海面(水面)反射波による干渉が弱く、応答が中断することはほとんど無かった
・波高が高くなる状況においては両偏波のSARTの応答の安定性には差は見られなくなった。
このことから、水平偏波よりも円偏波の方が応答性に優れていることが確認できた。
6.2 実海面試験
6.2.1 船舶レーダのPPI映像による視覚的観測と評価
試作した円偏波アンテナと従来の水平偏波アンテナの視認性に対する波浪の影響を調査するために、海上保安庁の協力を得て相模湾で実海面試験を行い、視認性データを取得した。
実海面試験を行うために、無線局の実験局を申請し、平成12年11月20日に認可された。
当初の予定では、小型軽量化を図ったもので実験局を開設する予定であったが、関係官庁との折衝の過程で「通常のSARTのように12点の応答波の発射は海難と誤解される」との指示があった。そのため、急遽4点の応答波を発射する形式に変更することにしたが、小型軽量化SARTでは12点を4点に制限する基板の追加は時間的制約からできず、6.1項で使用したSARTで実験局を開設した。
6.2.2 航空機搭載用レーダのPPI映像による視覚的観測と評価
6.2.2.1 航空機搭載用レーダの特長
船舶用レーダではコストの低廉なマグネトロンが使用されているが、航空機搭載用レーダでは高性能化を目的にレーダ送信部の出力増幅には、進行波管(TWT)が多く採用されている。進行波管を使用するとコヒーレントな電波を送信できる利点から、受信波を信号処理するパルス圧縮によるクラッタ抑圧処理などが可能となる。そのため航空機搭載用レーダでは何らかのパルス圧縮方式が適用されているものが多い。パルス圧縮の一方式としてチャープ(chirp)方式と呼ばれる代表的な方式がある。このチャープ(chirp)方式とは、送信パルス幅の時間の中で送信周波数を直線的に変化させる方式で、受信時には特殊な遅延フィルタを使用してパルス幅内に分散している周波数の異なった成分を凝集(圧縮)させる。