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(2) 連邦人事行政システム

 

カナダの公務員制度は、旧宗主国のイギリスの制度と隣国アメリカの制度との接木状態になっている。すなわちこの国の中央人事行政機関は、3人の委員からなる公務委員会(Public Service Commission)と、大蔵大臣を含む6人の大臣で構成する財政委員会(Treasury Board)との複数機関からなり、イギリス政府型の複数制人事行政システムが用意されている。前者は専ら任用、試験、任命行為に対する不服申立て、研修などの人事行政部門を所掌し、後者は連邦政府職員の雇用主として、組織、定員、給与、年金など、主として勤務諸条件を所掌する。しかしそうした行政システムを採っているものの、システム運営の技術的な側面では、アメリカ型の職務分類によるメリット重視のアプローチが採用され、1920年代以降の人事行政改革は、北米大陸に位置する両国の協調作業の観がある。

 

(3) 人事行政の主な視点

 

カナダ連邦政府は、1980年代半ば以降、同年代の当初から発足したイギリスにおけるサッチャー首相の行政改革を見守りながら、いわゆる新公共(行政)管理(NPM)への道を模索するようになった。小さな政府への傾斜、企業経営の手法の導入、管理者への権限委譲と研修給与決定方式の透明化など、矢継ぎ早に打ち出された。これらの新しい施策の多くは、わが国でも取り上げられているので、カナダならではの視点と考えられる主なものを、数え上げてみたい。

その第1は、何はともあれ、1998年10月に公表された"Citizens First"(市民第一)のコンセプトである。この構想は1997年、カナダ連邦政府のNPM推進機関の一つであるカナディアン・マネジメント開発センター(The Canadian Centre for Management Development: CCMD)の主唱により、市民中心のサービス・ネットワーク(The Citizen-Centred Service Network: CCSN)が設立され、官民200人以上の有識者の意見を結集したものである。その内容は国・州・市町村の各レベルの行政に対する市民の具体的反応を調査したものであった。今回のカナダ現地調査の前に1998年発行の報告書を入手し、現地でこの調査に参加した専門家たちの見解を直接聴取した。いずれも目線を個々の市民に置いた調査結果で、NPMの新しいアプローチを示すものである。

 

【「市民第一」報告書のハイライト】(注2)

この報告書は、市町村・地域(州及び準州)・連邦レベルの政府における行政サービスを、カナダの人々がどのように受け止めているかを報告し、さらに公共サービスの質的の向上のための明確な方向を示すためのものである。今回の調査であきらかになったのは、次のような点であった。

 

・人々が考えていることとは違い、カナダの人々は、政府が提供するサービスの質は、多くの民間部門が提供するサービスの質よりも、「高い」か「さらに高い」と評価している。

 

 

 

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