10 ナサニエル・B・セイヤー氏
(ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院SAISアジア研究主任教授)
ブレアー氏に続き、同じ8月10日、やはり全日空の渋谷氏の紹介で、SAISのセイヤー教授に面談した。大学のメインキャンパスと離れたワシントン市内の中心部にいまでは古くなったSAISのビルがあり、その1画がアジア研究室だった。アジア研究室は、駐日大使だったライシャワー・ハーバード大学教授の名前を取ったライシャワーセンターと呼ばれている。セイヤー氏は、中曽根元首相の名を取った日本研究寄付講座の担当教授でもある。
ブレアー氏と同じ日本研究者だが、日本ではブレアー氏よりも知名度は高い。コロンビア大学のPhDで、国務省に入り、ワシントン、東京、ラングーンに在勤した日本専門家として知られる。一時、中央情報局CIAに転じ、東アジア・大洋州担当幹部も務めた。その間、コロンビア大、ニューヨーク市立大、ハーバード大などで講師も務めている。日本関係の著作が多く、主著に「日本の保守支配」(プリンストン大学出版局、1968)。近著に「比較日本政治論」を予定しているという。
その学識と、国務省内での処遇に違和感を感じているようである。たとえば、国務省きっての日本専門家であっても、キャリア・サービスであるかぎり、駐日大使にはなれない。学生時代にそうであると知っていれば、国務省に入らず大学に残っただろうなどという。しかし、ともかく、楽観的な立場から連邦公務員への評価を加えたいとしている。同氏によれば、一般に連邦公務員(CIVIL SERVICE)には国に奉仕する気概があり、スキャンダルはない。この点は、議会スタッフとは職業倫理(ETHICS)や忠誠対象(LOYALITY)が異なる。
個人的体験から言うと、CIAには独特のルールがあるという。その一つは50歳で退職することである。それを除くと、アメリカの公務員制度の特徴である、いわゆる回転ドア人事にはよい面と悪い面の両面がある。いい例でいえば、証券取引委員会(SEC)はいい仕事をしている。正直で清廉である。通常、若い人材がSECに入り、5年から10年勤務し、そこでSECの仕事を覚え、それから民間に出る。それが、また民間業界の倫理の高いレベルを維持するために貢献している。悪い例では、ロビーイングがある。ロビイストとして議員事務所に出入りし、議員との結びつきを深め、そのうち政治任命で行政府に3年ほど務め、またロビイストに戻る。そのたびに政官とのつながりを深める。
政治任命とキャリア・サービス(職業官僚)との間の処遇の問題がある。一つの省に平均12局あると、その局長の大半は政治任命だ。政治的圧力から行政官がどれだけ自由であるかといっても、これでは政治的圧力と本人の裁量との区別がむずかしい。たとえば、商務省などはいくつかの利益分野の連合体である。一方で通商代表部は、議会と深く結びついている。