そこで、改めて調査の目的などを説明することになったが、現場の新聞記者としては働き盛りで、飲み込みも早く、気持ちのいいインタビューができた。
インクワイラーは100年以上の歴史のあるアメリカでも有数の新聞だが、フィラデルフィアの人口減少や産業の衰退から、経営は苦しく、現在はアメリカ最大の新聞チェーン、ナイトリダー(Knight-Riders)の系列下にある。他の新聞と同じビル、同じ印刷設備を共有するなどの合理化を行っているが、発行部数が40数万部というのに日本の全国紙と比べても、編集局の設備は比較にならないほど立派である。もっとも、事業収入に占める新聞発行の比率は日本の新聞事業よりはるかに低いという事情もあるから、発行規模では比較できない。
同氏は、オハイオ州の出身。ジャーナリスト教育では有名なオハイオ・ウェズレイヤン大学(Ohio Wesleyan Univ.)でジャーナリズムとコンピュータ科学を専攻した。大学卒業後、7年間オハイオの地方紙で働き、それからインクワイラー紙に採用された。アメリカの一流紙の新聞記者として標準的なキャリアである。同紙では7年になるが、最初の3年間は、社会部(City-News)で、それから経済部(Business)に転じた。現在は、経済担当の編集委員として、特別取材を担当している。仕事には満足しているという。
同氏は、レーガン政権に始まり、クリントン政権で本格化した連邦公務員のダウンサイジングに批判的である。大量の減員と、連邦レベルでの権限の集約や地方分権を進めた結果、連邦公務員からモラール(士気)を失わせたのではないかと懸念する。これまでの公務員制度改革で、多くの権限を州に移したが、州公務員の方が政治の影響を受けやすいという問題が表面化している。
一般に、連邦公務員は州の公務員より高いレベルの教育を受けている。この20年間に、その資質に見合った処遇や権限の配分を受けてきたとは思えないが、まだ、州やローカルレベルの公務員より高い責任感を残していると思う。
一方で、公務員倫理には問題がある。政府倫理法などの規制があり、在職中の倫理規則はよく守られているが、退職後の行動はどうなのか。例えば、法律で退職前の職場や職員との接触は制限されているが、実際にそれが守られているとは信じられない。取材を通じて、そうでないと思われる事例もしばしば経験している。しかし、具体的に倫理上問題になるような事例はほとんどない。
基本的には、連邦公務員には品位のある(Decent)人物が多い。給与やポスト、権限など現在の処遇でよく仕事をやっているといっていい。このような公務員制度に新しい変化があるとしても、望ましくないことだが、それは、すべて危機を通じてのみ可能になるだろう。