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そういう純粋美術をつくる一方、木の実を拾い集めて絵本を作りました。

これから見せる絵本の原画はこの世にはもうありません。写真を撮ったらその場で崩して、同じ木の実を使って次のページを作るわけです。

今見えているこの実は、カゴの実という照葉樹です。高知にもたくさんある木です。伊豆半島、そして日の出あたりが北限ではないかと思います。小鳥たちが食べて、食べそびれたものが道路に落ちるので、それを拾ってきます。

 

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お山の山犬が、ある日大声でほえようと思いました。この黒いものは1週間ぐらい前に拾った木の実です。どんどん黒くなっていくわけです。去年のしなびたものもこの中に入っています。同じ木の実で次のページができています。大体3時間ぐらいかかって作って、5分で撮影が終わり、また作り始めるわけです。要するに、この頭のあたりの赤い実がここへガオーッと出てしまったわけです。残ったものが去年の木の実や1週間前の木の実です。

これはストーリーが最初からあるわけではありません。木の実に聞きながら作っています。「おまえたち、何になりたいんだよ」という感じです。「オオカミになりたかったのか、ほえたいのか」とほえさせて、こうなってしまって、こういう鳥になってしまうのです。この左側のものは草の実で、イシミカワというものです。1匹食べられ、2匹食べられ、3匹食べられ、あとに残った4匹が、みんなが食べられてしまうのは嫌だから、お山のオオカミになってこの鳥をやっつけてしまおうと思うのです。

しかし、ストーリーとしては3匹食べられ、4匹食べられ、最後の1匹になって、とした方がいいのです。ところが、そういうふうにしまったもので、絵の具ならば消して描き直して、4匹を1匹にしてしまえばいいのですが、木の実や草の実なので、気がついた時点で今年の木の実は全部落ちてしまっているので、1年待たなければいけないわけです。

ですから、ここまでは去年の10月に作ったのですが、次のシーンは今年の11月に作りました。今年はなぜか去年と比べてカゴの実が大きいのです。ですから、よく見ると、なぜこんなに違うのか、というところがあります。でも、「ちょっと間違えたから来年まで待ってください」と言うのがいいよね。出版社の人は「えっ?」と言っていましたが…。

そして、最後に残った1匹が、「オオカミになる」とやるのです。これは周りがマキの実で、中が野ブドウの実です。今年、伊豆半島に野ブドウがすごくたくさんできました。ところが、それがオオカミにならずにカエルになってしまったので、鳥に食べられそうになるのです。カエルは食べられそうになったので、今度は鳥をけちらして、バラバラにしてしまいます。そして、1匹のカエルが砂漠を歩いていると、向こうからかつて鳥だった、バラバラになったものがカエルになってやってきて、抱き合ってオオカミになります。そして、ある日「ガオーッ」とほえたくなるという話です。

これは来年11月、この木の実が熟れる頃に出版します。3年がかりですが、そういうことが今面白いのではないかと。今はデジタルで何でもできますが、絵をどんどん描いてパッと出版するよりも、自然界のペースに合わせて絵本づくりをしようと。

これが来年11月に出ると、全国の子どもたちやお母さんたちが「私たちも木の実で何か作ってみよう」という気持ちになるかもしれません。

 

 

 

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