普通どんな所でも、波止場に行くとコンクリートにたくさん貝がくっついているのですが、何もくっついていないのです。そして、その上黒島だけではなく、その近辺のイワガキが死滅しはじめました。
そういう話を聞いて、僕は漁船をお借りして行ってきました。すごいです。そうしますと、僕のアシスタントが急に泣き出しました。びっくりして「どうしたんだ」と言ったら、「あの島はうちの島だ」と泣いているのです。その人は愛媛県出身の女の人です。上黒島は広島県の島なのですが、もうすぐそこが愛媛県の島なのです。
ボーダレスという話を先程もしましたが、そのちょっと先の島でメバルが釣れると、それはほとんど内臓奇形を起こしているのです。肝臓奇形になっているのです。しかし、メバルを買ってきて台所で料理して「これは肝臓奇形だ」と気がつく主婦は日本中1人もいないと思うので、みんな食べていると思います。
豊島の話は皆さんご存じだと思います。解決に向かってはいますが、大変なことになっています。豊島沖のサッパという魚にはものすごいダイオキシンが生物濃縮されています。サッパというのは小さな魚ですが、1匹でニホンアカゲザルが子宮内膜症を起こす可能性があるというくらいの量だそうです。これは大阪の摂南大学の宮田先生のお話です。
専門家の先生の前でこういう話をするのは恥ずかしいのですが、魚に限らず生き物は体の中に酵素を持っていて、死んでもその酵素は働き続けます。ですから、死んだ動物や魚は自然に分解されていきますが、それを酢漬けにすれば腐らないわけです。酵素だけが働いて、その酵素がいい味を作るわけです。
そのサッパという魚は小さくて骨ばかりの魚なので瀬戸内海の漁師さんたちは捨てていましたが、それを酢漬けにしてみたところ、すごくおいしかったのです。自分の持ってきたご飯を全部食べてしまい、それでもまだ食べたいというので、隣の船から「ちょっとまま貸してくれよ」と言って、ご飯を借りてまで食べたくなるということで「ままかり」という有名な名産物になったのですが、瀬戸内海は今も本当に宝物のように美しい海です。
僕は小学校のとき、太平洋よりも瀬戸内海にあこがれました。地中海のようなとか、温暖で果物もよくとれるということを教わりましたが、今、瀬戸内海は死のうとしています。「ままかりどころじゃねえ」と言いたくなります。
高知には、酒盗(しゅとう)というカツオの内臓の塩辛がありますが、おいしいご飯に合うものは大体酒にも合うわけです。ですから、酒盗も白いご飯に合います。しかし、土佐人は恥ずかしくて、飯に合うということは言いません。そして、借りるなどということは言いません。ですから、酒を盗んでくる。これが瀬戸内海のような温暖なところで静かにやわらかい感性で住んでいる人と、怒濤さかまく太平洋の黒潮バーンというところの違いです。これだけラジカルなのです。
カツオの塩辛では子宮内膜症にはならないのですが、瀬戸内海の人に「もっと怒れ」と言いたい。「高知の生コン事件などは環境運動の見本だ」などと僕は言っています。あまりラジカルなことを言うと差し障りがあるかもしれないので、海の話は一応ここまでにしておきます。
僕は昔から植物のことが好きでした。
ですから、木がめちゃくちゃにされるのを見ていると、自分の体を裂かれるような気持ちになります。それはたぶん、これから僕がやっていく仕事ではないかと思います。
今、木の実を何千個と集めています。今年の夏、モクレンの実2千個で畳1畳分の大きさのコラージュを作りました。それから、2年間に渡ってカタツムリの殻を5百個集めて、作品作りをしました。
そういう作品をファインアートといいますか、純粋美術の作品として今、作り続けています。世の中の注目を浴びようと浴びまいと、これから僕は21世紀に向けて、文化や芸術だけではなく、経済も政治も環境問題を抜きにして何も語れなくなると思いますが、その中で、化学物質まみれの絵の具で描き、町に大きなプラスチックのモニュメントを作っているアーティストというのはやがて断罪されるのではないかと思っています。