その谷風が流れる所に住んでいた60軒・300人くらいの集落で、6〜7年という短い期間に17人の方が亡くなりました。以前は皆90歳とかそれに近い方のお弔いばかりで、若い人は全く死ななかった土地柄でした。「最近、お弔いが多いなあ。しかも20代、30代、50代、60代前半という方たちが亡くなって、これはおかしい」と。それもガンです。調べているうちに、ついでに調べたら僕もガンでした。僕は今死なずに生きていますが、あのとき調べなければここにいなかったかもしれません。
そういう危険な処分場が全国に造られようとしています。これは何とかくい止めなくてはいけないと、全国的な運動を起こしました。ごみを燃やして埋め立てることを何とかやめさせなければいけません。
まず、データを開示しろと。色々な物質が周りから出ているはずです。処分組合は、それを管理運営する行政ですが、それを隠したのです。僕らは裁判に訴えました。仮処分で裁判所が僕らの訴えを採用してくれて、「開示しろ、データを示せ」という判決を下しました。ところが、データを見せたら第2処分場ができなくなるから、それは見せられないということで、なんと裁判所の決定を無視したのです。ということは、すごくデータが悪いわけです。それでどうなるかといいますと、開示するまで1日30万円の罰金を取られるわけです。そして、第2処分場ができるまでそれを隠し続けて2億円払いました。そういうことは普通の業者はできませんが、行政は税金をたくさん持っているからできるのです。
それで、これでは僕らの健康が守れないということで、処分場予定地の真ん中の土地を買い、そこで頑張りました。これはすごいことでした。巨大処分場を造っている真ん中に僕らは居座ったわけです。普通そういう所に入っていけば、「工事中ですから出ていってください」と言われますが、僕らの土地ですから、いつでも入り込むことができました。
そこでどんな工事をやっていたかといいますと、チェーンソーでどんどん木を切っていくのです。そこはタヌキやキツネ、テン、アナグマ、ムジナなどの動物たちがたくさん棲んでいる場所です。もちろんリスやウサギ、ムササビもたくさんいました。
例えば、テンは夜行性の動物で、夜狩りをして朝方自分の巣穴に戻ります。その時にはそこは深い森です。ところが、朝方チェーンソーの音がしてきたなと思うと、11:00頃にはその辺りに全部木がないのです。そして、チェーンソーの後ろから巨大なパワーショベルがガーッとえぐっていくのです。ですから、明け方寝ついたテンが昼頃巣ごとえぐられる。ブルドーザーとパワーショベルの間をテンの子どもたちが逃げまどっている風景を僕は見ました。
大きなスギやヒノキはチェーンソーで切ります。エゴノキやクヌギ、日の出にすごく多いアカシデは30〜40年経ったいい木です。芽吹きにはたくさんの昆虫が来て、花が咲けば虫たちやハチ、チョウチョウ、小鳥が、実がなれば色々な小動物がそれを食べる。1本の木の周りにどれだけたくさんの生き物たちが息づいていたか。すごくいい木です。それをチェーンソーを使わずにパワーショベルでつかんで引き裂いて、ねじ切って、引き抜いて捨てるのです。
それを見ていたら僕は胸がつぶれそうになって、「俺を殺してからこの森を破壊しろ」という感じで、僕ら何人かでブルドーザーの前に寝転がりました。時間がないので、その闘いの一部始終はお話しできませんが、これはすごかったです。ひどい目に遭ったり、ケガもしました。しかし、「森と一体化した」とすごく感じました。
都会の人たちはどんどんごみを捨てる。そのごみが燃やされ、毒物になって、山奥のだれも見ていない処分場に入れられる。そして、そこから有害物質が流れ出て、川を汚す。平井川では体の曲がったフナがよく釣れるそうです。そして、これは海まで行く。ダイオキシンが生物濃縮され、それを食べた人間の脂肪にたまっていく。そして、いろいろな働きをします。もちろん発ガン性物質ですし、男性の精子を少なくしたり、女性化させたりするわけです。また、体の抵抗力を弱くし、他の病気にかかりやすくするなど、いろいろな働きをする物質がこの地上をボーダレスに汚しています。
そのことを僕は都会の人たちにどうしてもわかってもらいたかったので、この絵本『やまからにげてきた・ゴミをぽいぽい』を作りました。僕は、なんとかのための絵本は絶対に作らないつもりでした。