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アワビやウニを採っていたり、磯でワカメを採っていれば、畑とさほど変わらないぐらいの権利を持っているわけだから、そういう意識もあります。

他の国では、海の資源は全ての人に同じようにとる権利があるので、誰が一番早くとるかが問題です。だから、資源を保護したり場所を保全したりはしないのです。

でも、日本の場合は漁業権制度があるから、海の畑とはいえなけれども、少なくともその場所に対して自分の所有の意識もあることはあるのです。

 

(安達) 資源がだんだん枯渇してきましたので、今は何でもかんでもとってよいというわけではなく、魚であれば、ヒラメの場合は30cmか20cm以下のものはすぐ海に返します。また、サザエやアワビも大きさが決まっていて、それより小さいものは採らずに返すようになってきています。

 

(ケビン) 三浦さんもおっしゃいましたが、農業の課題についてです。

今、アメリカもそうですが、ヨーロッパを中心にして、農業というものを完全に考え直しています。

今までは農業というのは主に作物を作る産業でした。だから、経済的な能率を求めて農業を維持・管理し、政策を作ってきたのです。でも、ヨーロッパの場合は日本と同じで、ほとんどが国土の狭い国です。そして、原生自然、人々が全く暮らしていない場所はほとんどないのです。だから、多くの生き物、鳥や昆虫などが農村の自然の中で暮らしていますが、農業の効率を求めたら自然が悪化しました。

でも、5〜6年前からそれが一転して、農業は国の自然環境を守る事業であること、つまり農業をしている人は作物を作っているだけではなく、皆のために国の自然を維持・管理しているのだということも考えているのです。

だから、自然にやさしい農業を営む人々に対して国が補助金を出します。EUというヨーロッパ全体の経済組織でも予算を組んでいますし、同時に各国も予算を組んでいます。やはり、自然にやさしい農業は能率の低い農業でもあります。だから、その分を公共の予算で支払うのです。

例えば、ひとつの事例として、ドイツにコウノトリという大きな鳥がいます。日本のコウノトリに非常に似ている鳥で、昆虫を食べます。ドイツには牧草地が多く、牧草を刈るときにたくさんの昆虫が出て、それがコウノトリの餌になります。

農家から見れば、大きな牧草地を一気に刈ってしまえば非常に能率が高いのですが、そうすると一気にたくさんの餌が出るけれども、2〜3日後にはコウノトリの餌がなくなります。

だから、国が、牧草地を一気に刈るのではなく、少しずつ刈るように農家と契約します。2〜3日毎に刈ると、長い時期を通してたくさんの餌が出るのです。そうすると、農家は生産コストが少し上がります。その分は国が支払うのです。

特に日本の場合は、農業だけではなく、漁業、林業も、生産産業であるばかりではなく、国民全員のために自然を守る仕事でもあると思います。その立場から、行政的に完全に見直す必要があるのではないかと僕は思うのです。

高山さんからの質問です。

 

日本はバブル崩壊後不景気で、景気立て直しに躍起になっております。田舎は若い人が少なく、都会に出てしまいます。

人の価値観を変えないと、環境は変えられないのでしょうか?

 

(高山) 現在の、日本だけではなくても、アメリカのご出身ですから、特にアメリカのことを聞かせていただけたらと思います。

日本は戦後、アメリカの真似をして大量生産・大量消費の経済活動をしていますが、そういう中で、お金中心の社会になったのではないかと思うのです。それが幸せだからということで、田舎の人が皆都会に出たり、反対に経済を起こすために田舎から人を集めた歴史もあると思いますが、それが今も続いています。先程の漁業の話も、田舎の野菜の大量生産も、すべて経済というか、そういう価値観に基づいているのではないかと思います。

 

 

 

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