それが、この小さな国がたくさんの人の暮らしを支えるひとつの秘密です。
もうひとつ秘密があると思います。それは、日本人が昔から水の資源をうまく利用する知識と知恵を身につけていたことです。多分この辺でもそうだと思いますが、千葉県で農家の人と話すと、おいしい米は田んぼで作るのではなく山で作るといいます。また海辺の漁師たちにも、豊富な魚や貝類は山で作るという昔からの意識があったのです。
今、世界中に「ウォーターシェッド・マネージメント」という言葉が流行っています。「ウォーターシェッド」というのは、ひとつの水系や流域、つまり山のてっぺんから海岸を含めた海までの地域をいいます。そして「マネージメント」というのは維持管理です。つまり、今アメリカとヨーロッパでは、水系、流域ごとに自然や土地を維持管理しないといけないという意識が高まってきたのです。
でも、実は日本には昔からそういうものがあったのです。もちろんそういう専門用語は使っていませんでしたが、日本人は昔から、水の流れ、または水と農作物、水と漁業資源の関係はちゃんとわかっていたのです。それをわかったうえで、ものすごく水資源を大事に利用したことでたくさんの人がこの狭い島で暮らせるようになったのです。
ですから、よく日本人は外国の発想に弱いといわれますが、環境問題に関しては、もちろんある程度外国から学ぶことは多いけれど、それよりも自分のルーツ、昔からあったものを掘り起こしてもう1回見直す必要があると思うのです。
そしてもうひとつは、日本の伝統的な暮らしは、水資源だけではなく、すべての物質、すべてのエネルギーに対して、全く無駄がありません。
松倉さんはリサイクルという言葉を漢字で書きましたが、これは非常にすばらしいものだと思います。でも、どうして新しい漢字を作らなければならなかったのでしょう?多分、昔は日本ではリサイクルという言葉は必要なかったのです。つまり、あまりに当たり前のことだから、それを指すための単語は必要なかったのです。
例えば、安達さんの話にあったように、お米のとぎ汁を畑にかけると自然な肥料ができて、農作物がよく育ちます。多分、昔の日本には、魚のかすなど残ったものを、必ず何かの形ですべてのシステムにもう1回入れるという仕組みがあったのです。今、世界に流行っている環境保全や自然保護の言葉、単語、発想は、実は日本には昔からあったのです。
やはりこの狭い国にこれぐらいの人間が継続的に暮らすためには、無駄があってはいけないのです。全てのものを一番高い能率で利用しないととても暮らせなかったのです。
だから、我々はこれから、場合によってある程度、海外からの発想やアイデアを取り入れてもよいのですが、基本的には昔からあった知識と知恵を掘り起こすべきだと思います。それをぜひ皆に考えてもらいたいと思います。
鵜飼さんはどうでしょうか?例えば、鵜飼さんが子どもの頃の人間と川の関係と、今の人間と川の関係はどういうふうに変わってきたのでしょう?
(鵜飼) 昔と今とでは全然違います。昔の子どもは山、海、川へ自由に友達と一緒に遊びに行きました。今の子どもは全然行きません。室内でじっとしています。友達が2〜3人交互に家を行き来する程度です。それから、野遊びしないので体が弱いと思います。あまりこきおろしてもいけませんので、このくらいにしますが、確かに変わったのは事実です。