パネルディスカッション 「豊かな自然を次世代に引き継ぐため」
コーディネーター:
ケビン・ショート(ナチュラリスト・文化人類学博士)
パネリスト:
安達美智子(浜田市漁協婦人連絡協議会副会長)
松倉幸正((社)益田青年会議所副理事長)
鵜飼育平(唐鐘川水質浄化対策実行委員会会長)
三浦寿紀(みず澄ましやさか)
(ケビン) 質問票は1枚だけです。なぜ日本人はもっと質問しないのですか?もっと質問していいと思います。これからこの質問に答えながら、できるだけ話を広げたいと思います。
その前に、皆さんの発表を受けて、僕の日本についての印象をもう少し詳しく伝えたいと思います。
僕は昨日、飛行機でこちらに来ました。羽田から出雲行きの飛行機に乗って離陸すると、東京湾をひとまわりし、千葉の上を通ってこちらに向かいます。まず東海地方、名古屋あたりを通り、日本のアルプス、高い山の上を通り、そして琵琶湖の一番北を横切って日本海に出ます。日本海に出ると、今度は西の方、出雲に向かいます。天気はそれほどよくなかったのですが、窓からはずっと下の方が見えました。
すごく印象的だったのは、日本という国は国土が小さく、高い山が多く、それでも人々がびっしり住んでいることです。人々が土地を隙間なく使っているのです。東京の沿岸は全部埋め立て地で、それから東海地方までずっと町のような過密状態が続きます。そして、深い、高い山の上を飛んでも、よく見るとその山の谷間に必ず小さな集落があるのです。それから琵琶湖を通って割と平らなところに来るとまた町がたくさんあります。
また、海辺を上から見るとよくわかるのですが、ほんの小さな入り江さえあれば必ず漁港があるのです。日本の沿岸には漁港、漁村が現在5千ヶ所あると言われますが、割と昔から日本人はこの日本という土地を集中的に隙間なく利用しているのです。
大きな谷間に町を作り、小さな谷間でも村を作り、田んぼを作り、また海岸沿いにずっと漁村を作って魚をとっていたのです。
不思議なのは、一体どうやってこの小さな国が、この人間の活動を養うことができるのか、ということです。常識では無理です。常識でいえば日本はもう1500年前につぶれたはずです。このくらいの資源をこのくらい集中的に利用すると、生き続けられないはずです。だから、これは非常に不思議です。
その答えのひとつは、日本は非常に豊かな水に恵まれた国だということです。これは多分、日本人にとっては当たり前でしよう。日本のどこでも1年を通して十分な雨量があります。それは日本にいる限り気がつきません。でも、僕の家がある南カリフォルニアに行くと、だいたい3〜11月は雨が一滴も降りません。だから、豊かな水に恵まれていない国に行かない限り、日本がいかに水資源に恵まれた国であるかは実感できないと思います。日本は豊かな水資源があるからこそ、ずっと昔からたくさんの人を養うことができました。
たくさんの水があるから、どこの山にも森があるのです。日本は、世界でも森林の再生がはやい国のひとつです。僕の住んでいる千葉ニュータウンでは、住宅地を造るときに森を伐採しますが、場合によってはすぐに家を建てず、何年も空き地になっています。それを見ると、2〜3年経つと、もうりっぱな二次林が戻ります。そして10年経つとほとんど元の形に戻るのです。だから、日本は木の成長が非常に早い国です。それはひとつの豊かさです。
そして、どの谷間からも水が湧き出て流れてくるため、昔から稲作が簡単にできたのです。だから、日本にはほとんど隙間なく田んぼができています。そして水が田んぼの中を流れ、やがて集まって海に流れ込みます。陸の方からたくさんの栄養分を持ったきれいな水が海に流れ込むので、日本は昔から沿岸の資源がすごく豊富です。そうして、昔から日本の海岸線にたくさんの漁村ができたのです。