よく考えると、日本は大雑把な経済構造からみれば、確かに製造の国です。たぶんマクロの経済構造から見れば、車やカメラとか、ああいうものをつくっている分野が大きいと思います。
でも、日本の国土から見れば違うと思うのです。日本の国土から見れば、製造部門に頼っている所はごく限られているのです。日本の大部分の人々はやはり漁業、林業、農業で生きているのです。それは僕にとって、日本の面白味、日本の楽しみなのです。
日本は国が小さいとよく言われます。確かに日本は国土の面積は狭い。でも、日本は南北に長く、高い山があります。そして、日本は南の方に行けば、熱帯に近い自然があるのです。大きなカシとかシイノキの森とか、または珊瑚礁とか、マングローブ。逆に、北海道まで行けば、海が凍りつくのです。アラスカとかシベリアに近い自然があります。それだけではなくて、海からだんだん山へ登っていくと、自然が変わってくるのです。
よく考えると、日本ほど国土の小さい国に、日本ほど豊かな多様的変化を含んだ自然のある国は、他にはないと思うのです。ですから、日本の自然は、日本人はものすごい誇りを持って強調すべきものだと僕は思っているのです。
でも、日本には自然があるだけではなく、やはり先程申し上げたように、昔からその自然の恵みを受けながら暮らしている人々の姿もあるのです。漁業なり、農業なり、山村なり。
僕は今、東京日本橋から電車で50分、千葉ニュータウンという住宅公団がつくった超巨大な団地の中に住んでいます。でも、その団地から10分歩いたら、田んぼがあって、雑木林がある。大地の上に畑がある農村の自然、そして、その農村の暮らしがそのまま残っています。これは僕にとって日本の楽しみ、日本の面白いところです。
日本は自然の変化に恵まれた国でありながら、文化と暮らしの変化にも非常に恵まれた国です。日本人は単一民族だとか、「日本の文化」という言葉も使うけれど、実は、日本は地方によってものすごく文化とか暮らし方が違うのです。
それぞれの地域とか、それぞれの村の文化と暮らしは、ものすごい大切な財産だと僕は思っています。自然そのものも財産ですが、暮らしも財産です。
なぜかといえば、人々の暮らしは長く続いてきたのです。何百年とか何千年続いてきて、そして、その長い間に人々が自然と仲よく暮らせるようになった。つまり、人間が自然と共に暮らせる知識と知恵がそこにあると思います。これは自然と同時に日本人がものすごく誇りを持って強調すべきものです。
僕は30年ぐらい日本の研究を続けていますし、日本で行ったことのない県はありません。でも、僕が旅に出かける度に、必ずびっくりさせられる新しいものがあります。
例えば、僕は昨日浜田に着きました。駅とかホテルの周りに、または時々車にローマ字で「BB」と書いてあるところがあちこちにあります。僕はこのBBというのはいったい何だろうと思いました。それで今日説明してもらいました。ビービーというのはこの辺では魚のことをさすそうです。ですから、この辺の人々は昔から魚に対してものすごく温かい心、ものすごく深い親しみを感じていたのだと思います。こういう暮らしとか文化が特に21世紀に入ると何よりも大切なものだと思います。
それから、情報時代の今、机に座ったままパソコンをいじれば世界のすべての情報が入ってきます。もう処理しきれないほどのたくさんの情報がいつでも簡単に手に入る。でも、気をつけないと、我々人間がそういう情報ばかりを頼って生きるようになります。つまり、全く地球と離れて、情報の世界で生きている人間になってしまうおそれがあります。
でも、漁村、山村、農村に行けばそうではなくて、しっかりと地球に、土の中に根を下ろして生きている人がいます。そして、こういう人々の暮らし、知識と知恵、文化が21世紀にとって何よりも大事なものになってくると僕は思っています。
ですから、これからある事例発表、パネルディスカッションの中で、こういう生き方についてもっと詳しく考えて、またはどういう形でどういう風に、その暮らしを21世紀に活かしていくかを皆さんと一緒に考えたいと思っています。