漁師さんの森づくりをずっと取材していって、ある時ふと思いました。漁師さんが山に登ることはいいのですが、先程の藻場も海の中にある一種の森ですから、自分の足元の海の森を放っておいて山に行ってもしょうがないのではないか、という気がしてきました。
私は藻場のある所に取材に行くと、必ず「昔と比べてどうですか」と聞きますが、みんな「減った」と言います。昔は、藻場に足を突っ込むと、エビがワッと出てくるという状況でした。船のスクリューに絡まって困るほどありました。ところが、今は全然ない。そう分かっていながら、あまり対策をとっていません。
では、アマモをどのように増やしていくのか。何回か取材に行きましたが、いったん減ったアマモを増やすことは、ものすごく難しいことです。
建設会社も水産試験場もやっているのですが、今のところうまく行っているのは、ちょっと伸びた苗の根っこに粘土のようなものを突き刺して、それを1個1個ダイバーさんが海の中に潜って置いてくるというケースです。1個1個置いてくると、重いので安定して生えてくるのですが、ものすごくお金がかかります。たった1m2やるのに2万円ぐらいかかるということです。1ヘクタールやると2億円です。
アマモが年間どのくらい減っていっているかといいますと、正確なデータではありませんが、少なくとも毎年70ヘクタールくらいは減っていっています。何億円かけても減っていく方が多いわけです。ですから、今あるものを守ることが非常に重要なのです。
先程、陸奥湾の話を聞いて、これだけ熱心にやっていらっしゃいますから、ぜひアマモの保護にも力を入れてほしい、さらに増やす技術研究もやってほしいと思いました。
もうひとつ私が気になっていることは、養殖による自家汚染です。生活排水は水を汚す原因として確かに大きいのですが、陸奥湾の場合は比較的いいな、と思いました。
かつて、三重県の湾のあちこちで、真珠貝の養殖をしていました。20〜30年前はここと同じくらいきれいで、「これだけ儲かるのであれば…」ということで、みんな真珠貝をどんどん作っていきました。真珠貝にもホタテと同じように水を浄化する力がありますので、最初はそれでよかったのです。しかし、真珠貝も糞を出しますから、それがどんどん底にたまっていき、ひどいところでは5mくらいヘドロがたまっています。そういうところがいくつかあり、硫化物が噴き出してきて、とても生物が住めるような状況ではなくなってしまいました。
では、真珠貝はどうしたかといいますと、結局浄化できないものですから、養殖場所が別の湾に行ってしまいました。焼き畑農業のように、ダメだったら別のところに移ればいい、という感じです。結局、海を捨ててしまったということです。
今でも海の環境が回復しないという状況が、三重県などにはあります。それを見ますと、やはり今きれいでも安心はしていけないということです。福田さんが非常に熱心なので安心したのですが、このような方たちがあちこちにいたら三重県もあれほど汚れなかったのではないかと思います。現実には、どうしても儲けを多くしようとして、ついたくさん養殖してしまうわけです。
これは貝だけではなく、魚もそうです。魚も過密養殖で湾が全部ダメになってしまっています。
三重県の尾鷲湾も、タイの養殖を始めて最初の内はすごく調子がよかったのです。ところが、タイ養殖がどんどん広がり、20年くらい経ったら、その裏では汚染のためにアラメの藻場が減っていました。タイ養殖が20年経って、アラメが浄化していた分がなくなり、魚の養殖が海を汚し始めたため、海全体が悪くなってしまいました。
そのようなことを見ますと、やはり今のうちに手を打っておくことが重要かなと思います。
先程の廃棄物について、私は素人的に見ていたのですが、ホタテの貝殻がいっぱいたまります。これを何か有効利用できないかと思います。