私は昭和44年からホタテをやっています。私の家は海から15〜16mも離れていないのですが、その頃は浜へ行くと潮のにおいがプーンとしたものです。今日も浜へ行ってみましたが、やはり潮のにおいは昔からするとしなくなってしまいました。
昨日、一昨日と鰺ヶ沢で環日本海の大会がありまして、少し時間がありましたので浜へ行ってみましたが、やはり潮のにおいがちょっとしていました。それでは「陸奥湾の水が汚れているのか」といえば、ホタテを昭和44年から現在までやってきていますが、生産量が低くなっているわけではなく、むしろ上がっていますから、「別に水が汚れているわけではないのだな」と思っています。
陸奥湾でホタテ養殖をやって30年、生産量が伸び続けているのは、漁師自らが規制を守っている、そして、県の指導もいいからだと思っています。
ある人は「陸奥湾の人は頭が悪いから、多く物を作れないのだ。だから海も汚れない」と言います。私は頭が悪くて結構だと思います。長年、孫子の代まで伝えるためには、結局、薄く、浅く、長持ちさせた方が、1回に多くの収入を得るよりはいいことだと思っています。
陸奥湾はこの30年間、昭和51年に少しつまずきがあっていろいろありましたが、その後ずっと大きなこともなく、いい状態で来ています。
西田先生のお話では、陸奥湾に流れ込む川は50本とのことでした。私の地先、大体10kmの海岸には、川が15本流れています。舟をこぐような川ではない、イワナが1匹か2匹いるような川、もしくは喉が渇けばフキの葉っぱで水を飲むくらいのチョロチョロの川が15本流れています。前の漁業士会会長さんに聞きましたら、5kmの間に15本もの川が流れているということです。陸奥湾全体では何百本の川が流れているかわかりません。
その川の上流には人家はほとんどなく、もうもうと青く繁った森がいっぱいあります。そして、陸奥湾の大河、堤川とか蟹田川、田名部川などがありますが、一番人家があるのは青森の川です。そこには何十年も前から処理場ができています。佐々木市長さんは先程、雪の処理施設をまだつくるとおっしゃいました。田名部川、蟹田川にしても、上流に1つも悪い汚染をたれ流す工場が1つもありません。これが陸奥湾を長持ちさせている原因ではないかと思います。
こういうことからも、30年経ってもホタテばかりでなく、例えばカレイなども日本の地理情報に載るくらいの海であるわけです。
そして、この陸奥湾には、シャケ、タラ、イワシ、サンマ、イカなど、日本の海の魚のほとんどが回遊してきます。このような海は日本のどこにもありません。ましてや、マダラが産卵のために来るということは、北海道の湾にもありません。この陸奥湾にわざわざ入ってくるということは、私はかなり環境がいいのだと思います。
ただ、マダラの産卵はだんだんと少なくなってきているので、西田先生のお話のように、水は汚染されていなくても底の方にいくらか変化があるのではないかと感じています。
「陸奥湾をきれいにするために、あなた方(漁業師)は何をやっているのか?」という質問もたまにあります。
私はついこの前漁業士会の会長になったばかりであまり詳しくわかりませんが、今まで漁業士会も農業士会との交流が主だったのが、3年くらい前からは林業士の人との交流を強く深めており、森と海のつながりに関する行事を開催し、昨年は2千人ぐらい、今年は3千人ぐらいが参加しました。